デジタルトランスフォーメーション研究所

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【書評】両利きの組織を作る-大企業病を打破する「攻めと守りの経営」(加藤雅則, チャールズ・A・オライリー他)

概要

大企業病を打破する「攻めと守りの経営」

両利きの組織を作る

ー大企業病を打破する「攻めと守りの経営」ー

発行日: 2020年3月5日

著者 : 加藤雅則, チャールズ・A・オライリー他

発行人:原田英治

発行所: 英知出版株式会社

媒体 : 電子書籍、単行本

書籍の構成と内容

第1章 いま必要な組織経営論

第2章 AGC、変革への挑戦ー戦略と組織を一体として変えるー

第3章 両利きの経営-成熟企業の生き残り戦略ー

第4章 組織はどのようにして変わるのかーアラインメントの再構築

第5章 組織開発の本質ートップダウンとボトムアップの相互作用を作り出す

第6章 脱皮できない蛇は死ぬー日本企業のための組織進化論

誰にお薦めしたいか

 両利きの経営、組織を、AGCという日本の伝統的企業をテーマに、事例、理論、実践の3つの要素を踏まえ解説している。素材産業を中心として、日本の伝統的企業の経営者や会社役員に是非読んでいただきたい。素材産業は、コンシューマーから遠く、DX戦略やコトづくりというテーマで悩んでいる企業も多いため、絶対的なデジタル戦略が見えないとしても、新しいイノベーションを起こす組織能力をどのように実現しようかと思慮されている場合が多いのではないかと思います。

書評と所感

テーマ全体

 両利きの経営で着目している点は、サクセストラップ(過去の成功体験から導き出したKSF=成功の鍵に沿って組織やガバナンス、文化が形成されており、新しい環境に対応できないこと)に陥った組織を、どのように変革するかという点で、DX戦略と共通している。DXと両利きの経営の比較については、前回の書評を参考にされたい。

参考)【書評】両利きの経営ー「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く(チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン)

 今回、両利きの組織を実践した事例として紹介されているのが、日本の素材産業大手のAGC株式会社である。実際に同社の変革を支援された著者ならではの視点で実際の打ち手を詳細に紹介されている。素材産業は多くの顧客が存在する分、特定の最終顧客を絞りにくいため、DX戦略立案の困難性が高いことは、十分予想できることだ。AGC社は、DX戦略を立案して全社で突き進む代わりに、両利きになることにより、新しいイノベーションが生まれ続ける組織への変革を行った。当然、既存事業の深化もおろそかにしてはいけないという観点で、この両利きの経営、両利きの組織というコンセプトがマッチしていたのではないかと思われる。また、自らがイノベーションの表舞台に立つというチャレンジも選択肢にある中で、「自らがイノベーションを起こす会社というより、顧客のイノベーションを加速する製品や素材をつくる会社」、「素材加工会社から素材開発会社へ」など、方向性を打ち出し、そのための変革を経営陣がリーダーシップをとって実行しているという点では、その手法やプロセスについては貴重な事例ではないかと思う。なお、このビジョンを内外に伝えるために用意された企業ステートメント「Your Dreams, Our Challenge」というものに、そのしっかりとした方向性が反映されていると感じた。

デジタルトランスフォーメーションにおけるビジョンの整合性の例(弊社資料)

 本書で頻出する言葉に「アラインメント」という言葉がある。私がよくDXビジョンの整合性という話をさせていただくが、それと同じ役割を果たすものであろう。ここで重要なのは、深化型事業と探索型事業のそれぞれのあるべき姿を設計し、それぞれの事業のアラインメントを行い、両組織で発生しやすいコンフリクトをしっかり経営主導で解決し、調整する仕組みを作っている。これらの手法は、DXを進める企業においても、しっかり見習うべき重要な項目である。

参考)DXのビジョンは経営者主導で策定せよ


まとめ

 このAGC社の変革は経営陣のリーダーシップなしには、無しえなかった。しかし、組織開発とは「変える」のではなく、組織が「変わる」を支援する取り組みであると本書に書いてあるように、変革の主役は組織の現場にいるすべての社員である。経営者がその責任を果たしつつ、組織にいる個人個人のモチベーションをしっかりと理解し、行動変容をデザインしている事例を、著者の解説でわかりやすく理解することができた。変革の最大の難点は、DXも両利きの経営も同一である。過去の成功とそこから学んだKSFだけにしがみつかず、この変革の執行の難しさを理解し、逃げることなく立ち向かい、新しい環境で価値を高められる真のリーダーシップを持つ経営者と企業が少しでも増えることを心から願っている。

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(荒瀬光宏)

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