自治体と行政におけるDXの難所と対応策

新内閣発足以降、デジタル庁新設や自治体のDX推進など、DX関連ニュースが行政界隈で急増している。

菅首相デジタル庁基本方針についてのニュース

自治体DX推進に関する武田総務大相のインタビュー

素晴らしい第一歩ではあるが、行政におけるDXは、民間のDXよりさらに難易度が高い。その理由は大きくわけて、以下の通り

  1. 優秀な公務員ほど変革しにくい

  2. 縦割りの組織文化

  3. レギュレーション、法制度

  4. 市場原理が働かない

以下に個別に難所となる理由とその対策について解説する

1.優秀な公務員ほど変革しにくい

 DXは、新しい市場環境における事業の在り方を再検討し、これまでの組織の提供価値や戦略を見直し、新しい時代のあるべき姿を再構築するための変革である。しかし、その変革における最大の難所は戦略を変えることでもなく、経営の指標や仕組みを変えることでも、組織を変えることでもない。人の行動を変えることである。民間DXにおいても、これが最大の壁となるのであるが、行政においてはこのハードルがさらに高い。

 今までは、プロセスをしっかり理解し、ルールや上の命令に従うことがよい公務員とされてきた。それは間違った理解だと反論される方もいらっしゃるとは思うが、民間企業に比べるとこの傾向が強いのは明らかだ。行政の影響を受けやすい業界、例えば銀行なども同じ傾向があると思われ、半沢直樹のドラマでも、そのようなシーンを強く感じる場面が多く描かれているのは、うなづけることではないかと思う。

 いままで公務員として正しいとされていた行動様式を変えることは簡単ではない。このような組織の1人1人の行動変容を起こすには、どのようなDXをして、どのような行動変容を期待しているかを組織の1人1人に伝わるように明文化(例:弊社DX憲章策定支援など)し、トップやマネジメント層が自ら変わっていく姿を職員に見せることが重要だ。また、全職員がDXに関する基礎知識、デジタル技術、変革手法、事例を学ぶための勉強会をオンラインスクール等で開催(例:弊社DX実践道場など)することも必要だ。さらに、小さな成功によりDXが進展していることを内外に啓蒙し、職員の「変わりたい」や「変えたい」を後押しする研修(例:弊社プロジェクト伴走型研修など)を行う、住民との対話を加速し民意を行政に積極的に取り入れる仕組みの構築などの施策により、総合的にかつ同時進行で組織変革の機運を高めることが重要となる。

2.縦割りの組織文化

 利用者視点でサービス設計するにしても、組織の業務効率を上げるにしても、新しい課題の解決方法を見つけるにせよ組織横断的な取り組みは欠かせない。従来の組織やプロセスでは解決できないことがほぼすべてであるからだ。

 今回縦割り110番が設置されるなど、新内閣も縦割りの弊害に警鐘を鳴らしている。しかし縦割りの弊害に警鐘を鳴らす人は以前から多かったにも関わらず問題を解消できていない。それだけ根本的解決が難しいということだ。

 これは個人単位の行動変容を促すだけでは解決しない。マネジメント層の横のコミュニケーション、現場の横のコミュニケーションを取らざるを得ない状態に持っていくことが第一歩だ。組織間のコミュニケーションがないままだと、永遠に自部門の論理にに固執し、他部門の意見や課題を聞かないまま終わるためだ。この第一歩として有効なのは、クロスファンクショナルチームを組成し、新しいサービスや課題解決について部門横断で検討し実施する取り組みを増やすことだ。このためには、研修を兼ねた組織横断プロジェクトの組成(例:弊社プロジェクト伴走型研修など)が良い訓練となる他、SLACKやCHATWORKやLGWAN上のLOGOチャットのような新しいコラボレーション系コミュニケーションツールを積極的に活用することが有効な手段となる。

 これらの組織横断プロジェクトを組成してけん引することができるのは、自治体であれば首長であり、中央官庁でいえば内閣である。トップのリーダーシップと、組織横断コミュニケーションの活性化策の実行、KPIの測定と対策の継続的実行をする役割が求められる。

3.レギュレーション、法制度

 DXの成果を出そうとすると、新しいサービスや課題解決をしていくことが求められるが、デジタル化を阻む法制度が多いのがこの国の大きな課題である。例えば、公印を押さないといけない公文書がデジタル化できない、手書き署名をしないと意思表示を確認できない、押印をしないと申請できないなど、電子政府先進国エストニアなどと比べたら、無駄と非効率の塊であることは多くの人が指摘をしている。また、ユーザーエクスペリエンス(UX)を最適化したサービスを構築するためには、個人情報の活用は必須であるが、マイナンバーをはじめとする個人情報については、まだまだ他の目的での利用の制約が多いのが現実だ。一方、デジタル弱者への配慮も検討は必要だが、デジタル弱者に対してもデジタルを使ってより行き届いたサービス設計をすることは可能であり、それ自体は問題にならない。これらレギュレーションの問題は、どれも法制度の変更で対応できる問題である。日本が社会インフラの効率を維持して豊かな経済を維持するためにも、最優先でこの規制緩和に取り組むことが必要だ。

 自治体の場合は、規制緩和されないのでできないということも多いとは思うが、できることは多く存在する。自治体単位で条例を変える、国の法律を変えるよう要望をする、スーパーシティ特区に応募して規制緩和してもらうなど様々な手がある他、法規制がないにも関わらず先入観や今までの常識で「できない」と思い込んでいることがないかも確認する必要がある。また、特に他の自治体で取り組んでいるところがないか、そこと連絡をとったら何か打破できないかなど、様々な模索をする姿勢が求められる。成功するための絶対条件は、諦めないことである。

4.市場原理が働かない

 民間企業もDXに苦しんでいるとは言え、効率化や提供価値の追求をしないと市場の競争原理が働き、やがてその市場から追い出される。そのため、収益確保や社会における存在意義を追求する結果として自ら変革し進化する作用が働く。それに対して行政においては、税金という収入で何をするかという順序で物事を考えるため、予算をちゃんと使うことで評価されるなど、民間企業には信じられないような仕組みが平然とまかり通っていることは皆さんご存じのとおりである。

 もちろん、民意で首長が変わったり、内閣が変わったりという影響はあるにせよ、的確に市場原理が働くというにはほど遠い。これについては、組織内の管理の仕組みを変える必要がある。年間の予算計画、執行も変動する社会環境にあわせて活動するには適していない。思い切ったリーダーシップで管理指標、人事評価手法を思い切って改訂して運用することが求められるが、組合や既得権益からの反発も予想される。そのため、これらのマネジメントシステムを変更するには、トップのビジョンにあわせ、住民、組合などのステークホルダーとの対話の場を作り、そこに時間をかけることが重要だ。

上記は行政DXのポイントだが、民間DXのポイントも含め、多くのポイント押さえないとDXは成功しない。これらの全容については弊社オンラインスクールDX実践道場内で現在紹介中である。

(荒瀬光宏)

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