デジタル庁で国民生活の何がどう変わるのか② -行政のDXの必要性-
9月に設立されたデジタル庁は連日報道等で取り上げられるものの、どのような組織であり、どのように我々の生活が変化するのか。なかなか理解しづらいのではないだろうか。そこで今回の記事では、デジタル庁が目指す「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズにあったサービスを選ぶことができ、多様な幸せを実現できる社会〜誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化〜」はなぜ必要なのかをまとめ、その際の課題などを示したい。
デジタル庁の設置までの経緯や基本理念などは「デジタル庁で国民生活の何かどう変わるのか① -全体概要-」をご参照ください。
なぜ、いま行政サービスのデジタル化が必要なのか
その答えは非常にシンプルで「国民が享受すべき行政サービスの質を高め、国民の満足度を高める」ためだ。
行政は立法府によって意思決定された法令などを公共政策を国民に還元(作用)させる機能である。そう、企業と同様に「消費者(国民)を満足させる」ことがその存在意義であり、行政も企業と同様に国民が満足する行政サービスや価値を提供することが求められている。
しかし、国民のうちどの程度が満足しているだろうか。我が国において、行政は非効率で、サービスも不便であると思われているのではないだろうか。前回にも少し述べたが、2020年4月から実施された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」において、住民台帳に記載された住民に10万円の特別給付をされることとなったが、その際の実施主体であった市区町村の混乱は、記憶に新しい。このように国民の視点に立ち、その行政サービスが本当に必要な国民に届けられないと、当然、国民の行政サービスへの不満になる。
企業とのギャップ
情報化やグローバル化、インターネットの普及など21世紀に入り、世界は大きく変動した。これにより当然、企業は消費者の満足を追求しより使いやすく、透明性のあるデジタルサービスを提供するようになった。このように国民はデジタルサービスにより満足感を得ている。このような背景にあって、行政サービスが変化しない限り、その差分は大きくなる一方だ。
消費者が感じる不満要因は以下のように整理できる。
入力「利用する際のインターフェース」
提供速度「効率化された作業手順による迅速な提供」
プロセスの透明性「利用状況や作業のステータス確認」
入力「利用する際のインターフェース」
企業では顧客体験の最適化がなされたサービスがあらわれている。特に企業ではサービスが選択され、再度購買されるかなどは顧客接点の体験による部分が多い。一方で行政サービスはお世辞には「顧客体験が最適化された」とは言えないだろう。特に若い世代は、デジタルサービスを提供されることが多く、紙での申請を中心とした手続きに適応しにくい。しかし、行政は公共政策を司っているため、ここでしか得られない価値が存在するため、利用せざるを得ない。このむず痒い体験を多くの国民は感じている。
提供速度「効率化された作業手順による迅速な提供」
例えば、国内で引っ越しを行ったとして、転出届と転入届を出す際、どの程度の時間が費やされるだろうか。同時に運転免許証の住所変更や、マイナンバーの住所変更、水道サービスの利用開始、公共図書館などの利用書などが考えられる。書面や対面での手続きには時間がかかる。データが紙で入力された場合、人間が目視で確認し、手渡しされる。不備があれば再提出される。また対面では平日の9時から17時に行かなければならない。さらにヒューマンエラーも発生しているだろう。
一方、企業ではどうだろう。例えば、ECサイトで何かを購買した場合、入力する最中にエラーが感知され、間違いがあると教えてくれるし、決済情報などを入力しても瞬時に適応される。
プロセスの透明性「利用状況や作業のステータス確認」
前述の例に戻るが、転入届を提出した場合、「あと何分で終わるのか」「その他の窓口に行かなければならないのか」など、その作業のステータスが確認できないことが多い。多くの役所の場合には受付番号が振られるが、「次に呼ばれる」ことは分かっていても、「あと何分か」は分からない。また行政サービスをいつどこで利用したかの履歴を見たことはない。
一方、企業では瞬時に手続きされることも多いが、少なくとも進捗が表現されることが多い。またマイページなどでは過去の購買履歴などが見ることができる。
データを活用した提供される価値の最大化
上記のような不満要因を解決されるのが「デジタル」である。現行の行政サービスのあり方は、入力するフォーマットがバラバラで顧客体験が悪く、提供スピードも遅い。さらに手続きのステータスも確認できず、我々国民が何の行政サービスを利用しているのかなどの確認ができない。
このような状況をデジタルに置き換えるとどう改善できるのか、またさらに国民に還元される付加価値はどのようなものがあるだろうか。
デジタルへの置き換え
書面による申請をデジタルに置き換えよう。この2つの差異は、入力される形式である。書面では自由な記載が可能であるが、デジタルの場合には決められた規則で入力される。このようにデータが一定のルールに従って整理されるのだ。
このようにデータが整理されることで、ネットワークを通じて共有することが可能となるため、紙の手渡しなどの作業が不要になる。書面からデジタルにされることで、データ管理が容易となり、作業手順の簡素化により、手続きにかかる時間は大幅に短縮できる。さらにデータが決まった規則で整理されれば、自動化も図れるだろう。人工知能やプログラムは魔法ではなく、このようなデータの整理から取り組む必要がある。
このように提供速度が迅速化するだけでも国民の待ち時間が短縮され、満足度が上がるだろう。
EBPM(エビデンスに基づく政策立案)
さまざまな行政サービスがデジタルで提供され、国民に関するデータが蓄積されれば、データ(=エビデンス)に基づく、行政サービスの利用状況や公共政策の課題、さらには国民の不満なども理解できるかもしれない。
企業においては、商品・プロダクトを市場に投入する際には、ターゲット市場はどこか、顧客セグメントはどのような属性か、どのチャネルで訴求するかなど、より効率的に顧客に情報を届け購買につなげるかを検討する。その際にはマーケティングリサーチは欠かせない。
行政サービスの多くは、このような考え方が、浸透してない。もしデジタルへの置き換えが実現できた場合には、どのような国民(年代や地域など)、事業者(規模や地域、業種など)がどのような行政サービス(住居の移転、補助金の利用など)を利用したという、属性データと行動データを分析することで、次の政策を立案することができる。それこそがEBPMである。
「国民が享受すべき行政サービスの質を高め、国民の満足度を高める」ために、どのような障壁があり、もしデジタルへ置換された場合の利点を示してみた。これらを踏まえ、考えられるポイントは以下のようになるだろうか。
民間との共創民間企業では実現されている顧客視点や業務プロセスのデジタル化を民間との共創により実現する。結果として官民でのギャップが埋められ、国民の満足度が向上する
データの整理今後の拡張性を踏まえ、申請情報等のデータを一定の規則によって整理することで、顧客接点の最適化、業務プロセスと提供速度の迅速化、EBPMの実現がなされる。
一方で、依然として課題は残る。以下の通りである。
個人情報保護の観点
実施体制(組織文化)
次回には個人情報保護の観点に触れてみたい。
▼前編はこちら
(白石陸)
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