日本のDXのためのデジタル政策提言

IT連の「2022年度(令和4年度)政策要望」とは何か?

政策要望の全体図

日本IT団体連盟は「2022年度(令和4年度)政策要望」を公表、牧島デジタル大臣に2022年1月13日提出、さらに2月2日にデジタル社会推進本部に提出したそうです。本政策要望の全体図は、こちらに転載させていただいた通りです。内容については、以下のリンクから、日本IT団体連盟が公開されている要望書等をご確認いただければと存じます。

参考)2022年度(令和4年度)政策要望についてのIT連の活動報告

参考)政策要望 全文政策要望 概要版

参考)デジタル社会推進本部の様子(動画)

拝見したところ、飛び道具的な突飛な提案があるわけではありません。むしろ日本という国が国基盤をこれからのデジタル環境にあわせて再構築する際に必要なことを丁寧に整理して記載されています。国政の各分野ごとに実施するべき施策と、全体をつなげるための基盤としての施策、いままで国のDXについて危機感を感じていた人誰もが歯がゆい思いをしながら見ていたことを、膨大な範囲ではありますが、丁寧に整理されていると感じました。これを整理された方の国を思う思いと、その情熱に敬意を払いたいと思います。

本要望の大項目は以下の通り記載されています。詳細は、要望書自体を確認いただければと存じます。

大項目

  1. 国家基盤のDX

  2. デジタル人材基盤整備

  3. 地方のDX

  4. 防災・災害対応のDX

  5. 教育のDX

  6. 医療健康のDX

  7. 企業のDX

  8. 金融財政のDX

  9. 次世代産業への投資

  10. ダイバーシティ推進

このような政策提案を出す先が明確に存在しているという観点で、デジタル庁の設立の意義があったというものでしょう。しっかり政府がこのようなデジタル改革をリードしていただければと思います。

本政策要望のポイント

 本要望の前文には、いうまでもなく、デジタル化はそれが目的ではなく手段に過ぎない。政府の重要会議においては、解決したい課題を国民と共有するように、丁寧に運んでいただきたい。と記載されています。デジタル化は、それ自体が目的ではないということは多くの人が理解しているとは思いますが、実際の施策に取り組んでいると、誰もが落とし穴に陥りやすいという点で最重要なメッセージです。実際にシステムを企画し運営する人々が、「システム化することになったからシステム化する」という従来ありがちだった組織行動ではなく、デジタル時代の価値創造・価値提供のあるべき姿に沿った組織行動ができるかどうかということだと思います。つまり、DXの本丸はシステムの仕組そのものではなく、組織行動の変革です。この組織行動の変革ができなければ、いくらシステムを構築しても、国民の安心安全で行き届いたサービスや人間らしい生き甲斐のある幸福な生活を提供することは出来ないでしょう。

 最初にお伝えしたいことは、ここで言う組織行動とは、デジタル技術をよく知っている事ではありません。もちろん、デジタル技術で何ができて、どのようなサービスが今登場しているかいうことについては、一定の知識を持っていただければと思っています。むしろ、この新しい環境で課題を解決したり、価値を創造したりするために必要なスキルと、働き方などに該当します。

デジタル時代の価値創造・価値提供のあるべき姿に沿った組織行動とは

  • 顧客である国民や企業など、すべての関係者の視点に立ち、提供サービスの体験価値を最大化すること

  • 社会課題の解決にあたっては課題の根本原因を徹底的に追求し、関係者と何度でも対話し、省庁民間横断的なコラボレーションを行うこと

  • 従来の行政サービスの枠にとらわれず、新しい社会環境を理解し予測し、行政でないとできない多くのことに主体的に取り組むこと

  • 新しいサービス構築にあたっては試作品やプロトタイプを最小の時間で作って、利用者に確認し、意見を取り入れて何度でも作り直し、結果的に早くニーズに合ったサービスを無駄なく作り提供するプロセスを実践すること(アジャイル、リーンなどと呼ばれます)

などです。もちろん、アジャイルな進め方は利用者が直接触れるサービスがメイン対象で、国家基盤の部分はそうはいかない部分はあります。その場合は、対象業務ごとに最適なプロセスを定義することが重要です。また、年度予算計画という制約や年度の区切りが足かせになって、アジャイルに進められないこともあります。組織縦割りの壁が障害になってコラボレーションはおろか手出しできないテーマもあることでしょう。目的や全体感が明確に示されないまま上から細分化された指示が下りてきて疑問を持つ余地なく実行しなければならない場合もあることでしょう。

 しかし、組織形態、コミュニケーション手段、ルール、ガバナンス、組織文化、評価制度、マネジメント方法といったものは、すべてその組織が正しい組織行動をするために作り上げられたものです。新しい組織行動を実践するために、これらをどのように変えて、組織行動を変容するべきかを、考え実行できるのは、マネジメント層であり、トップです。上層部の皆様が、新しい環境についてしっかり理解し、どのような行政を目指すべきか、そのためにどのような組織行動をとるべきか、そのためにどのようなガバナンスや組織変革を実行するべきかというグランドデザインに是非着手してほしいと思います

 つまり、行政に限らず、DXとはデジタルの仕組と組織行動を支える仕組み両輪の変革により初めて成し遂げられます。その視点では、デジタルやITを人任せにしていては成功しません。デジタルは国や企業を運営するために重要な手段ではありますが、まず行うべきことは、どのように国や企業を変えるかというビジョンをデザインし、そのデザインを実行するためのシステムと組織行動の設計をすることです。内閣や企業経営者には、そのリーダーシップが今求められています。

参考)自治体と行政におけるDXの難所と対応策

参考)デジタル庁で国民生活の何がどう変わるのか① - 全体概要-

参考)デジタル庁で国民生活の何がどう変わるのか② -行政のDXの必要性

参考)自治体DX調査報告

(荒瀬光宏)

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