【DXの定義の解説⑤】エリックストルターマン氏による定義の改訂(2022年)

エリック・ストルターマン氏による定義の改訂(2022年)

2022年2月、エリック・ストルターマンは、DXを推進する日本の様々な組織の現状に合わせて、社会、公共、民間の3つのレベルで、デジタルトランスフォーメーションの定義を以下の通り再策定しました。本再定義にあたっては、日本の社会と企業の競争力と成功を高めることをビジョンとして掲げる株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所とコラボレーションの上、策定を進めました。今回は、この定義の改訂(2022年)について解説します。

社会のDX

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、人々の生活のあらゆる側面に影響を及ぼす。DXは単なる技術的な発展ではなく、社会を構成する私たちが、リアル空間とデジタル空間が融合し高度に複雑で変化する世界にどのように関わり、接するかに影響を与える広く深い変化である。DXはよりスマートな社会と、一人ひとりが健康で文化的なより良い生活を送れるサステナブルな未来の実現をもたらしうる。

公共におけるDX

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、あらゆる組織や分野でスマートな行政サービスを展開し、革新的な価値創造を支援することができるものである。また、DXは住民をより安全・安心にし、快適で持続可能な社会へと導くことができるソリューションを生み出すことで、住民の幸せや豊かさ、情熱を実現し、地域やエリアの価値を向上させることを可能にする。DXは既存の仕組みや手続きへの挑戦、より住民本位の革新的な解決策を協働で考えることを促す。DXを推進するためには、組織のあり方や文化を革新的、アジャイル、協調的に変革することが必要である。DXは、トップマネジメントが主導して行うものでありながら、全てのステークホルダーが変革に参加することを求められる。

民間におけるDX

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業がビジネスの目標やビジョンの達成にむけて、その価値、製品、サービスの提供の仕組を変革することである。DXは顧客により高い価値を提供することを通じて、企業全体の価値を向上させることも可能にする。DXは戦略、組織行動、組織構造、組織文化、教育、ガバナンス、手順など、組織のあらゆる要素を変革し、デジタル技術の活用に基づく最適なエコシステムを構築することが必要である。DXは、トップマネジメントが主導し、リードしながら、全従業員が変革に参加することが必要である。

(弊社訳)

参考(新定義の弊社発表ページ)

デジタルトランスフォーメーションの新定義の内容

参考(他のDX定義の解説)

エリックストルターマン氏定義(2004年)の解説

デジタルトランスフォーメーション研究所定義(2017年)の解説

経済産業省定義(2018年)の解説

日本政府定義(2019年)の解説

定義策定の背景

注)この背景についての記述は、DXとはのページと同一のものです

 2004年、エリックストルターマン氏(当時ウメオ大教授、現在弊社エグゼクティブアドバイザー)が提唱したDX(デジタルトランスフォーメーション)においては、情報技術の継続的な発展は、新たな非常に複雑な環境を生み出し、人々の生活も劇的な影響を受けることから、革新的に進化する技術の経験的・理論的な理解を前提に、美的体験のもたらす価値をメソトロジーの中心的コンセプトに位置づけることを求めていました。しかしながら、特に日本においては、その複雑なコンセプトは要約され、様々に解釈されています。

当初のエリックによるDXの捉え方は以下のようなものでした。

The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.

人々の生活のあらゆる側面に、デジタル技術が引き起こしたり、影響を与える変化のこと(弊社訳)

定義のイメージ

その後、エリックによるDXのコンセプトをベースに、日本では今まさにDXブームへ発展しています。その一方、様々な組織が独自に解釈、公表するなど、当初エリックが発表したコンセプトと異なる使われ方が実態として増えております。

また、エリックは、DXをデジタル技術による外部環境の変化と捉え、それが人々の生活のあらゆる面に影響を与えると提唱しました。エリックは明確に、当初の論文において、盲目的にデジタル技術を受け入れることに批判的な立場をとっていますが、日本においてはより良い影響があると訳され、解釈されています。また現在では、DXは組織や個人が主体的かつ戦略的に起こすものとしての使い方が主流となり、特に企業、行政、自治体などの自己変革という面で使われている他、単なるデジタル化として使われているケースも散見します。

これらの日本の実態を考慮し、エリックは、株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所の支援を元に、新たなDXの定義を策定いたしました。2004年当初の定義は社会におけるDXを表していましたが、DXは組織や個人が主体的かつ戦略的に起こすものという使い方をサポートする形で、今回の定義の策定に反映させ、社会、公共、民間の3種類に分けて策定いたしました。


定義の解説

社会のDX

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、人々の生活のあらゆる側面に影響を及ぼす。DXは単なる技術的な発展ではなく、社会を構成する私たちが、リアル空間とデジタル空間が融合し高度に複雑で変化する世界にどのように関わり、接するかに影響を与える広く深い変化である。DXはよりスマートな社会と、一人ひとりが健康で文化的なより良い生活を送れるサステナブルな未来の実現をもたらしうる。

本定義は、2004年定義の主旨を踏襲しつつ、DXのもたらす新しい価値についての説明を追加している。

「人々の生活のあらゆる側面に影響を及ぼす」は、前回定義の内容を踏襲している部分で、例外なく様々な生活やビジネスに影響することを意味している

「DXは単なる技術的な発展ではなく」は、技術の発展の延長線上にあるものではないということを明確化することを意図している

「社会を構成する私たちが」は、社会の変化でありながら、社会を構成する個人1人1人に与える変化でもあることを意味している

「リアル空間とデジタル空間が融合し高度に複雑で変化する世界にどのように関わり、接するかに影響を与える広く深い変化である」は、従来別のものであり交わることのなかったリアル空間とデジタル空間が融合するという変化を明言している。2004年当時の論文でも、「デジタルトランスフォーメーションに伴う最も重要な変化の一つは、情報技術により現実世界が徐々に融合し、結びついていくことである。モノは、システムやネットワークの一部となり、他の全てのパーツやモノと常にコミュニケーションをとることができるように設計される。これらの新しい現実世界や新しいシステムが形作られる傍ら、個別に設計されたモノは、より大きなネットワークの全体変容に貢献する進化する実体物とも捉えられる。全ての構成物が私たちの現実世界の新たな一部になるという概念は、新たな真の意味を持つことになる。」と記載されているが、一般に定義として引用される部分には含まれていなかったため、あまり取り上げられることはなく、知られていなかった要素だ。

「DXはよりスマートな社会と、一人ひとりが健康で文化的なより良い生活を送れるサステナブルな未来の実現をもたらしうる」は、DXのもたらす可能性として、クオリティーオブライフを高め、SDG'sのような社会課題の解決につながる要素を多く持っていると表現している。「もたらしうる」なので、あくまでもポテンシャルを持っていることであり、それを実現するためには、ただ待っていればよいということではなく、様々な人々の努力が必要だということは言うまでもない。

公共のDX

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、あらゆる組織や分野でスマートな行政サービスを展開し、革新的な価値創造を支援することができるものである。また、DXは住民をより安全・安心にし、快適で持続可能な社会へと導くことができるソリューションを生み出すことで、住民の幸せや豊かさ、情熱を実現し、地域やエリアの価値を向上させることを可能にする。DXは既存の仕組みや手続きへの挑戦、より住民本位の革新的な解決策を協働で考えることを促す。DXを推進するためには、組織のあり方や文化を革新的、アジャイル、協調的に変革することが必要である。DXは、トップマネジメントが主導して行うものでありながら、全てのステークホルダーが変革に参加することを求められる。

本定義は、省庁や自治体のような公共機関のとるべきDXについて説明している。

「あらゆる組織や分野でスマートな行政サービスを展開し、革新的な価値創造を支援することができるものである」は、従来の行政サービスを最適化して、利用者の利便性を最大化するとともに、地域の価値創造を支援することを目標とするべきと表明している。「できるものである」とあるように、そのポテンシャルを実現するためには、関係者の様々な努力が必要である。

「住民をより安全・安心にし、快適で持続可能な社会へと導くことができるソリューションを生み出すことで、住民の幸せや豊かさ、情熱を実現し、地域やエリアの価値を向上させることを可能にする」の部分では、一文目の内容を具体的に展開している。価値創造の為には、決められた行政サービスをデジタル技術で改善するだけではなく、これからの環境における住民の幸せや生きがいを高め、地域価値向上に貢献することが可能な要素として位置づけている。これらの価値創造のためには、デジタル技術の活用という点にとらわれすぎず、従来の働き方の変革が必要となる。

「DXは既存の仕組みや手続きへの挑戦、より住民本位の革新的な解決策を協働で考えることを促す」は、レギュレーションや業務手順などが多く存在する公共組織にとって、既存の仕組や手続きの妥当性を見直し、改めることが必要で、その際の視点として住民本位が重要であること、伝統や常識に囚われない新しい発想が必要であること、その際に組織の中でだけ閉じるのではなく、他の公共組織、関係住民、企業などとコラボレーションすることが必要であることを表している。

「DXを推進するためには、組織のあり方や文化を革新的、アジャイル、協調的に変革することが必要である」は、変革の最大の壁である組織行動の変容に向けて、組織文化を従来と異なるものにする努力が欠かせないことを表している。

「DXは、トップマネジメントが主導して行うものでありながら、全てのステークホルダーが変革に参加することを求められる」では、DX推進の際に必要な要素として、組織にDXを担当する組織を作って任せておくのではなく、首長が自ら方向性や進め方のビジョンを示し、組織の構成員や必要に応じて住民や企業の主体的参加がなければ成功しないことを表している。

企業のDX

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業がビジネスの目標やビジョンの達成にむけて、その価値、製品、サービスの提供の仕組を変革することである。DXは顧客により高い価値を提供することを通じて、企業全体の価値を向上させることも可能にする。DXは戦略、組織行動、組織構造、組織文化、教育、ガバナンス、手順など、組織のあらゆる要素を変革し、デジタル技術の活用に基づく最適なエコシステムを構築することが必要である。DXは、トップマネジメントが主導し、リードしながら、全従業員が変革に参加することが必要である。

本定義は、民間企業のとるべきDXについて説明している。

「デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業がビジネスの目標やビジョンの達成にむけて、その価値、製品、サービスの提供の仕組を変革することである」は、価値提供の仕組を変革することであると強調する一文だ。その結果として、企業がビジネスの目標やビジョンを達成可能となる。つまり、企業理念を変更することが求められているのではなく、顧客にどのように価値提供をするかをデジタル技術を使いながら再構築するものであると述べている。

「DXは顧客により高い価値を提供することを通じて、企業全体の価値を向上させることも可能にする」は、従来の製品やサービスの範疇にとらわれず、最適な顧客体験を提供することが、自身の価値向上につながることを意味している。2004年当初、エリックは論文の中でユーザーの美的体験を向上させるという表現をしていたが、その後、UX(顧客体験)の重要性、そのためのデザイン思考の組織への導入について深く研究しており、これらの手法を意識した一文だ。

「DXは戦略、組織行動、組織構造、組織文化、教育、ガバナンス、手順など、組織のあらゆる要素を変革し、デジタル技術の活用に基づく最適なエコシステムを構築することが必要である」は、従来と競争原理が変わる産業界において、顧客価値提供の仕組を変革するためには、価値提供の源泉となっている組織自体を変革することが必要であることを表している。また、エコシステムと呼ばれる新しい産業構造の実現とその中での自社の位置づけが重要となることを表している。

(荒瀬光宏)

参考(エリックストルターマンによる定義の改訂)

エリックストルターマンによる新定義の内容

参考(他のDX定義の解説)

エリックストルターマン氏定義(2004年)の解説

デジタルトランスフォーメーション研究所定義(2017年)の解説

経済産業省定義(2018年)の解説

日本政府定義(2019年)の解説

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