DXと豊かな経済、レジリエンス経営について
DXは昨今、さまざまな産業で取り立たされ、注目を浴びています。DXとは短期的な企業内部の革新ではなく中長期的な顧客体験の向上といった外交的な取り組みであり、短期的なコスト削減ではなく中長期的な価値提供のあり方の検討である、と考えています。また、DXがなされることで、予測不能な危機に対して柔軟な対応をしつつ、組織がより創造的かつ強固にし、成長につなげる力を養う「レジリエンス経営」への一歩となるでしょう。
昨今のDXに関する盛り上がりは、短期的で内向きな議論と、コスト削減が横行している気がしてなりません。また、このような歴史を鑑みず楽観視してDXが推し進められると、無味無臭、噛んでも味のしない経済になるのではないか、と危惧しています。つまり経済における「独り勝ち / 統一化」が進み、我々の精神における「短絡化 / 消費思考」が進むと考えられます。
いまこそ、「豊かな経済とはなにか」を議論した上で「レジリエンス経営とはなにか」を整理しておくべきでしょう。
『豊かな経済とはなにか』(長沼伸一郎『現代経済学の直観的方法』の論考から)
現在の国際経済を眺めてみると「縮退」が進んでいることが認識させられます。縮退とは「多く部分では衰退が進み、ある部分では繁栄が進むが、全体として繁栄していること」です。つまり経済に置き換えれば、富が巨大企業に集まり、中小企業は衰退することです。が、ご存知のように資本主義は常に成長しなければ成り立たないものですので、全体としてみれば成長しています。この状況では末端には資金が行き渡らずに壊死していくことになります。
実は似たようなことが人間の内部でも発生しています。それが「理想」から「欲望」への転換です。一般にこの両者は矛盾しているものであり、強く理想を保護しなければ欲望が勝つことになります。つまりケーキを食べたいという欲望には、痩せたいという理想は保護なしには勝てないのです。これもある種の縮退と言えます。
これら二つには共通点があり、それが「一般に希少性の高い状態から希少性の低い状態に移行する際にエネルギーが引き出される」という物理学でいう「エントロピー増大の法則」です。多数の中小企業が存在するより数個の巨大企業が存在する経済のほうが希少性が低いため、縮退が進み、理想より欲望のほうが希少性が低いために縮退が進むことになります。その際にエネルギー(=富)が引き出されます。
しかしこれでは、前述した通り「無味無臭、噛んでも味のしない経済」に近づいていくように思えてしまいます。
では、本質的に豊かな経済とは何なのでしょうか。
それは、「効率化されながら個性の際立った組織・個人による経済」です。
DXの定義によるとその目的は「競争上の優位性を確立すること」です。これが縮退をしてしまうと「独り勝ち / 統一化」が推し進められ、目的を達成することはできません。そのために我々は「レジリエンス経営」という概念を頭の片隅に置いておかなければなりません。
『レジリエンス経営とはなにか』
レジリエンス経営とは「予測不能な危機に対して柔軟な対応をしつつ、組織がより創造的かつ強固にし、成長につなげる力を養う経営」です。これは結果として「競争上の優位性を確立すること」であり、「効率化されながら個性の際立った組織・個人による経済」を構成するために必要なことです。
DX化の本質としてのレジリエンス経営を目指す取り組みは、戦略コンサルタント企業をはじめ推し進められています。が、大きな盲点があります。実は日本はレジリエンス経営を行う基盤が整っている国家であり、そこから学ぶ姿勢を見失っている点です。
なぜか。それは日本が老舗大国であるためです。世界の創業100年を超える企業のうち日本企業は4割を超えています。また森下(2012)によると、日本式経営を持続性(生業に専念すること)、関係性(利害関係社との良好な関係構築)、変革性(変わっていくこと)を評価しています。これはまさにレジリエンス経営と言えるのです。
「長く続く企業は伝統と革新のバランスが取れている」(曽根 秀一・静岡文化芸術大学准教授)と言われるように、老舗企業は「革新」を経てきています。江戸から明治への移り変わり、2度にわたる世界大戦など多くの荒波を耐え、今なお存在する老舗企業から学ぶべきことは多くあります。
DXはある種の「革新」に過ぎず、それらを複数回乗り越えてやっと「伝統」となります。このように「時代変革を乗り越えてきた伝統を評価することが『DX』の推進力となり、
『DX』により現代の情報化など変革を乗り越えることが伝統につながる」と考えています。
しかしながら、長寿企業にも縮退の魔の手が潜んでいます。それが後継者の不在です。この点を解決するために、「活力ある若者」が都市から地方へ移動する仕組みを官民で作り上げることが重要であると考えています。
「新興企業は伝統を学び、長寿企業は革新を学び、相乗効果を生み出すこと」がいままさに必要とされているのではないでしょうか。これが「効率化されながら個性の際立った組織・個人による経済」の実現のために必要なのではないでしょうか。