デジタル庁で国民生活の何がどう変わるのか① - 全体概要-
9月に設立されたデジタル庁は連日報道等で取り上げられるものの、どのような組織であり、どのように我々の生活が変化するのか。なかなか理解しづらいのではないだろうか。そこで今回の記事では、デジタル庁設置までの経緯と基本理念などを概観したのちに、より具体的にポイントをまとめたい。
また別記事では、デジタル庁の重点政策の概要や幹部人事などについてもまとめていきたい。
経緯と背景、基本理念など
2020年9月16日に組閣された菅政権の目玉政策の一つがデジタル庁の創設だった。菅首相(当時)の就任後初の記者会見で「複数の省庁に分かれる関連政策を取りまとめて強力に進める体制として、デジタル庁を新設する」と述べた。新たに設けたデジタル改革大臣には平井卓也元IT担当大臣を充て、2021年までの創設を目指された。
後に、2021年5月12日には、デジタル庁設立などを定めた「デジタル改革関連法」が成立、同年9月のデジタル庁設立が決定した。
これらはIT基本法を廃止し、「デジタル社会形成基本法」、「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(デジタル社会形成整備法)」「デジタル庁設置法」「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録に関する法律」「預貯金の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律」「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律(自治体システム標準化法)」の6本立てで構成された。その内容は主に「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズにあったサービスを選ぶことができ、多様な幸せを実現できる社会〜誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化〜を目指し、デジタル社会形成の基本原則を以下の10つとした。
オープン・透明
公正・倫理
安全・安心
継続・安心・強靭
社会課題の解決
迅速・柔軟
包摂・多様性
浸透
新たな価値の創造
飛躍・国際貢献
デジタル庁は、デジタル社会の形成に関する司令塔として設置され、各省庁に分散したデジタル政策を一元化、内閣直属に位置付け、各省庁に対して意見を提出できる勧告権を有し強い権限が与えられる。またデジタル政策関連の予算も段階的に一元化される。
デジタル庁設置法によって規定されるデジタル庁の任務は、デジタル社会形成基本法の基本理念に則り、内閣の事務を助けることであり、デジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図ることとされている。
基本理念は以下の通りである。
全ての国民が情報通信技術の恵沢を享受できる社会の実現
経済構造改革の推進及び産業国際競争力の強化
ゆとりと豊かさを実感できる国民生活の実現
活力ある地域社会の実現等
国民が安全で安心して暮らせる社会の実現
利用の機会等の格差の是正
国及び地方公共団体と民間との役割分担
個人及び法人の権利利益の保護等
情報通信技術の進展への対応
社会経済構造の変化に伴う新たな課題への対応
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上記のような基本理念や法律上の目的等を概観しても、抽象的で実社会での変化を想像する事は難しい。以下では「デジタル立国ニッポン戦略会議」(日経クロステック主催、2021年10月12日開催)での小林史明氏(デジタル副大臣兼内閣府副大臣、衆議院議員)による基調講演「デジタル立国のゴール」での発言を基にポイントをまとめてみたい。
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デジタル庁の存在意義は、時代に合わせてルールメイキングしていく必要性を象徴していることにある。現代においては手段であるデジタルと行政改革の両輪が必須である(注:当時、小林史明氏は行政改革の担当副大臣でもある)。まさにDXの概念と一致している。
当社で定めているDXの定義は以下の通り。
デジタルトランスフォーメーションとは
デジタルテクノロジーの進展で劇的に変化する産業構造と新しい競争原理を予測し
自社のコアコンピタンスを活用して他社より早く到達可能なポジションと戦略の策定
戦略実現のための新しい価値とサービスの創造、事業と組織の変革、意識と制度の改革
を経営視点で遂行すること
グローバル化や情報化など環境が劇的に変化する中で、立法府と行政府としての在り方を変化させなければならず、それそれがなぜ存在しているのかを検討し、国民にどのようなサービスを提供するか、価値をデリバリーするための事業と組織の変革、意識と制度の改革は急務と言える。
このようにデジタル庁の存在意義はDXが密接にリンクしている。また平井卓也・初代デジタル大臣が準備室のコンセプトを「Government as a Startup」、つまり素早くたち上げ大きく育てる」とし、同氏は会見で「小さく産んで、大きく育てるスタートアップ企業の考え方に近い組織にしたい」と述べた。このように新興企業のような組織文化を目指していることが見て取れる。
それらに呼応する形で、以下がポイントであると小林史明氏は語っている。
有事にも対応できる形にすること
前述の通り、デジタル庁は2020年9月からの菅政権における重点政策だ。振り返ってみれば、2020年2月頃からの新型コロナウイルスによるパンデミックを受け、4月16日には全国で緊急事態宣言が発出された。これを受け、4月20日には「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」において、感染拡大防止に留意しつつ、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行うとされ、住民台帳に記載された住民に10万円の特別給付を行うことが決定された。しかし、実施主体である市町村では混乱し、給付にかなりの時間を要する事態となった(参考:なぜ10万円給付に時間がかかるのか 東修平(四條畷市長))。
このように感染症のパンデミックなどの有事の際に国民生活を守るために、有事が十分に想定された柔軟な体制である必要がある。感染症の危機管理にとどまらず、国の存亡にかかわるほどの大きな危機、国益を損なうような危機に際し、国際的な公益も考えながら進めることの重要である。「未知」の事態が起きると、「不測」「想定外」など表現されるが、危機管理の基本は最悪のシナリオを考えておくことでもある。
このあらゆるシナリオに対応できるような形をデジタルで解決されるべきあり、それを管理運営していくデジタル庁では多様な人材と柔軟な組織文化が醸成されて然るべきである。
申請主義から脱してワンストップ・プッシュ型の行政を実現すること
日本では従来から申請主義的な行政サービス設計が主である。国民が自主的な「申請」を必要とする行政サービスの形である。これらによって、制度・サービスが必要な方が、必要・適切な時に、必要な制度情報を入手し、申請手続きを行い、制度・サービスの利用に至ることが難しくなる。
デジタル技術を用いれば、プッシュ型で必要な方に、必要な情報を、伝達することが可能になる。
また、日本では制度がきめ細かく、条件も非常に多く、分かりにくさは否めない。さらに縦割り行政の弊害もあり、複数の省庁にまたがって同じような制度では窓口で制度の利用を断念させようとする「水際作戦」が横行している。役所職員も他部署に申請や依頼をすることを避けている。これらによって、必要な行政サービスを受けようにも窓口で断念せざるおえない可能性がある。
縦割り行政を打破し、デジタル技術を用いればワンストップで処理されることが可能になる。
顧客(市民や企業など)目線でルールメーキングできるように対話、時に官民共創ができること
環境が劇的に変化する現代では、多様な声を聞きルールメイキングしていくことが求められる。よって官民での対話による相乗効果で顧客提供価値の向上が必要だ。特に新興企業などによる社会課題解決型ビジネスの場合、既存のルールで規定されておらず、法的にグレーになることが多い。ドローンやUber、Airbnbは特筆すべき例だ。そのような場合に官民での対話を行い、適切なルールメイキングすることは、経済構造改革の推進及び産業国際競争力の強化のために必須事項である。
さらには公的資金をリスクマネーとして供給する、実証実験の場として公的な施設などを用いるなど、多様な面での官民共創は求められている。既にデジタル庁では多くの民間人材の採用を行ったり、積極的に情報発信している。
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それぞれの点においてデジタル技術はあくまで手段であり、行政改革を行い、行政のあり方を変化させていくことが強く求められている。岸田政権に移り、組閣された際に牧島かれん大臣がデジタルだけではなく行政改革の担当大臣でもあったことは必然だったと考える。
しかし、民間人材の登用が実施されたデジタル庁の組織文化の醸成や他省庁や政務との関係、国民の理解など課題は多く残る。
今後のデジタル庁の動きを注視しつつ、日本最初のDX専業企業として当社も期待したい。
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(白石陸)
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