経済産業省が策定した「DX推進ガイドライン」について、その具体的な中身(要点)や、経産省による「DXの定義」を、原典に基づいて正確に知りたいとお考えではありませんか?
本記事では、日本のDX推進の「原典」とも言える「DX推進ガイドライン Ver.1.0」の全12項目を、ガイドラインに記載の失敗ケースや先行事例も交えながら、忠実に解説します。
さらに、本ガイドラインは後継の「デジタルガバナンス・コード」に統合され、現在公式サイトでは原典PDFが入手困難となっていますが、本記事の最後では、信頼できる原典PDFもあわせてダウンロード可能です。
なお、本ガイドラインはその後、2022年に「デジタルガバナンス・コード2.0」に統合。さらに、2024年に「デジタルガバナンス・コード3.0」へ改訂されています。
DX推進ガイドラインとは
経済産業省が公表した「DX推進ガイドライン」は、企業が変化の激しいビジネス環境の中で競争力を維持・強化し、データとデジタル技術を最大限活用するための経営・組織・ITシステム構築の要点を体系的に示したものです。
このガイドラインは「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」の提言を受けて作成され、経営層や取締役会、株主などがDXの取組をチェック・推進する公式指針として位置付けられています。
現在のガイドラインの位置づけ(デジタルガバナンス・コード3.0への統合)
- 2018年:DX推進ガイドライン Ver.1.0 を策定
- 2022年:ガイドラインを「デジタルガバナンス・コード2.0」に統合
- 2024年:「デジタルガバナンス・コード3.0」へ改訂(「3つの視点・5つの柱」)
本記事は Ver.1.0 の原典説明を主軸に、必要に応じて デジタルガバナンス・コード3.0 との接点も簡潔に補足します。
経済産業省が示すDXの定義
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
この定義は、単なるIT導入や自動化にとどまらず、経営や事業モデル、組織文化そのものの抜本的な変革がDXの本質であることを明確に示しています。
DX推進ガイドラインの全体構成
本ガイドラインは、DX推進担当者や経営層が押さえるべき2つの柱で構成されています。
- DX推進のための経営のあり方・仕組み(5項目)
- DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築(7項目)
DX推進ガイドラインの構成(図)

図:DX推進ガイドラインの構成(経済産業省ガイドラインPDFより抜粋)
以降、DX推進ガイドライン Ver.1.0 の主要ポイントを抜粋します。
【早見表】Ver.1.0は最新版(デジタルガバナンス・コード3.0)のどこに対応?
| DX推進ガイドライン Ver.1.0(主要項目) | デジタルガバナンス・コード3.0 「5つの柱」の主な対応先 |
|---|---|
| 1. 経営戦略・ビジョンの提示 | 1. 経営ビジョン・ビジネスモデル策定 5. ステークホルダーとの対話 |
| 3. 推進体制の整備 | 3-1. 組織づくり 3-2. デジタル人材の育成・確保 |
| 6. 全社的ITシステムの体制 | 3-3. ITシステム・サイバーセキュリティ |
| 10. IT資産の分析・評価 | 3-3. ITシステム・サイバーセキュリティ 4. 成果指標の設定・見直し |
DX推進ガイドラインの主要ポイントと抜粋
(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み
1.経営戦略・ビジョンの提示
ディスラプション(非連続的イノベーション)を見据え、データ・デジタル技術活用による新たな価値創出、そのためのビジネスモデルや戦略を明確化することが求められます。
(失敗ケース)「戦略なき技術起点のPoCは疲弊と失敗のもと」
(失敗ケース)「経営者が明確なビジョンがないのに、部下に丸投げして考えさせている(『AIを使って何かやれ』)」
2.経営トップのコミットメント
ビジネス変革や企業文化改革に対し、トップ自らが強いリーダーシップを持ち、必要な場面で明確な意思決定を行うことが不可欠です。
3.DX推進のための体制整備
DXを推進するための体制として、以下の3点が挙げられています。
- 各事業部門で新たな挑戦を促し、仮説検証の繰り返しプロセスを確立
- DX推進部門の設置と推進・サポート体制の整備
- DXをリード・実行できる人材の育成・確保(社外人材との連携も含む)
(失敗パターンとして「仮説を立てずに実行すること、失敗を恐れて何もしないこと」が明記されています。)
4.投資等の意思決定のあり方
単なるコスト重視ではなく、ビジネスインパクトや「投資しなければ市場から取り残されるリスク」を評価することが求められます。過度な定量的リターン主義も挑戦の阻害要因となると指摘しています。
5.DXにより実現すべきもの:スピーディーな変化への対応力
DXのゴールは、ビジネスモデル変革を通じて経営方針転換やグローバル展開等に即応できる体質を目指すべきと指摘しています。
(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築 (2)-1 体制・仕組み
6.全社的な IT システム構築のための体制
経営戦略を実現できる「全社アーキテクチャ」を描ける体制を確保することが必須とされています。
「経営戦略を実現するために必要なデータとその活用、それに適した IT システムの全体設計(アーキテクチャ)を描ける体制・人材を確保できているか」
先行事例として、〈経営レベル/事業部門/DX 推進部門/情報システム部門〉で構成する少人数チームがトップダウンで変革を牽引したケースを紹介。情報システム部門が DX 推進部門を兼ねる形でも可としています。
7.全社的 IT システム構築に向けたガバナンス
ここでは、システムの「個別最適」や「ブラックボックス化」を避け、あくまで「全社最適」を実現するためのガバナンス(統制)が求められています。
「IT システムが事業部門ごとに個別最適となることを回避し、全社最適となるよう、複雑化・ブラックボックス化しないためのガバナンスを確立しているか」
8.ベンダー丸投げを防ぐガバナンス
システム連携基盤の企画・要件定義はユーザー企業自らが担うことを強調しています。
「ベンダー企業に丸投げせず、ユーザ企業自ら要件定義を行っているか」
失敗例として「提案を鵜呑みにする」「実績重視で旧来ベンダーに依存」「CIOすらリスク説明を避ける」といった行動が列挙されています。
9.事業部門のオーナーシップと要件定義能力
各事業部門が DX で実現したい“事業企画・業務企画”を自ら明確化し、ベンダー提案を取捨選択したうえで要件定義・完成責任まで負うことが求められます。
「要件はユーザ企業が確定する」「要件定義の丸投げはしない」
失敗例には「情報システム部門任せで満足できないシステム」「要件定義を請負契約にしてブラックボックス化」「既存システム仕様が不明確なまま現行機能保証を要求」などが挙げられています。
(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築 (2)-2 実行プロセス
10.IT 資産の分析・評価
現行 IT 資産(老朽化・重複・未使用システムを含む)の棚卸しを定期的に実施し、事実データを基に評価すること。ガイドラインではシンプルに以下を問うています。
「IT 資産の現状を分析・評価できているか」
11.IT 資産の仕分けとプランニング
「どのシステムに投資し、どれを廃棄するか」を計画することを推奨しています。具体的には以下の3点です。
- 競争領域へリソースを集中し、協調領域は標準パッケージや共通 PF を活用
- サンクコストとなるシステムは潔く撤去
- 技術的負債を低減し「再レガシー化」を回避
(先行事例として「IT 資産を分析した結果、半分以上が停止しても問題ないと判明し廃棄を決断」「標準化した IT に業務側を合わせるため、カスタマイズには経営者承認を必須化」といった具体策が紹介されています。)
12.刷新後 IT システム:変化への追従力
新たなデジタル技術を積極的に取り込み、ビジネスモデル変化に迅速に追従できることがゴールと定義されています。
「IT システムができたかどうかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組みとなっているか」
(失敗例には「刷新自体が目的化し、目的不在のシステムが再レガシー化する」ケースが挙げられています。)
まとめ:原典ガイドラインをDX推進に活かす次の一歩
経済産業省が示す「DX推進ガイドライン Ver.1.0」は、日本企業が本格的なデジタルトランスフォーメーションを進める上で、経営・ビジネス・ITの全方位的な変革に不可欠な原典資料です。
DX推進担当者や経営層は、本ガイドラインを基準に自社の取組を評価・推進することが推奨されます。
本記事で要点を掴んだ後は、以下のステップでさらに理解を深め、自社のDX推進にお役立てください。
1. ガイドライン原典PDFをダウンロードする
本記事で解説した内容の「原典」をダウンロードし、詳細をご確認ください。
デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0(PDF) PDFダウンロードはこちら
2. 最新の指針「デジタルガバナンス・コード」を学ぶ
本ガイドライン(Ver.1.0)は、最新の「デジタルガバナンス・コード」に統合・改訂されています。最新の動向もあわせて確認しましょう。
また、2024年には「デジタルガバナンス・コード3.0」へ改訂されています。副題に「DX経営による企業価値向上」を掲げ、「3つの視点・5つの柱」に再整理されています。

3. DXの基礎知識を学び直す
DXの定義や基礎的な用語について、改めて確認することで、ガイドラインの理解がより深まります。

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
詳しいプロフィールはこちら