経済産業省が2018年12月に策定したデジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0は、日本企業のデジタル変革(DX)推進に関する公式な指針として広く参照されてきました。
しかし現在は経済産業省公式サイトからも原典PDFが削除されているため、信頼できる原資料を探す担当者が多い状況です。本記事では、DX推進ガイドライン Ver.1.0の全体構成と内容、DX定義を原典に忠実に紹介し、PDFもあわせてダウンロード可能としています。
目次
DX推進ガイドラインとは
経済産業省が公表した「DX推進ガイドライン」は、企業が変化の激しいビジネス環境の中で競争力を維持・強化し、データとデジタル技術を最大限活用するための経営・組織・ITシステム構築の要点を体系的に示したものです。
このガイドラインは「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」の提言を受けて作成され、経営層や取締役会、株主などがDXの取組をチェック・推進する公式指針として位置付けられています。
経済産業省が示すDXの定義
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
この定義は、単なるIT導入や自動化にとどまらず、経営や事業モデル、組織文化そのものの抜本的な変革がDXの本質であることを明確に示しています。
DX推進ガイドラインの全体構成
本ガイドラインは、DX推進担当者や経営層が押さえるべき2つの柱で構成されています。
- DX推進のための経営のあり方・仕組み(5項目)
- DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築(7項目)
DX推進ガイドラインの構成(図)

図:DX推進ガイドラインの構成(経済産業省ガイドラインPDFより抜粋)
以降、DX推進ガイドラインVer1.0の主要ポイントを抜粋します。
DX推進ガイドラインの主要ポイントと抜粋
(1)DX推進のための経営のあり方、仕組み
1.経営戦略・ビジョンの提示
想定されるディスラプション(非連続的イノベーション)を見据え、データ・デジタル技術活用による新たな価値創出、そのためのビジネスモデルや戦略を明確化することが求められます。
「戦略なき技術起点のPoCは疲弊と失敗のもと」
「経営者が明確なビジョンがないのに、部下に丸投げして考えさせている(『AIを使って何かやれ』)」
(失敗ケースより抜粋)
2.経営トップのコミットメント
ビジネス変革や企業文化改革に対し、トップ自らが強いリーダーシップを持ち、必要な場面で明確な意思決定を行うことが不可欠です。
3.DX推進のための体制整備
- 各事業部門で新たな挑戦を促し、仮説検証の繰り返しプロセスを確立
- DX推進部門の設置と推進・サポート体制の整備
- DXをリード・実行できる人材の育成・確保(社外人材との連携も含む)
「仮説を立てずに実行すること、失敗を恐れて何もしないこと」は失敗パターンと明記されています。
4.投資等の意思決定のあり方
単なるコスト重視ではなく、ビジネスインパクトや「投資しなければ市場から取り残されるリスク」を評価。過度な定量的リターン主義も挑戦の阻害要因となると指摘しています。
5.DXにより実現すべきもの:スピーディーな変化への対応力
ビジネスモデル変革を通じて経営方針転換やグローバル展開等に即応できる体質を目指すべきと指摘しています。
(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築 (2)-1 体制・仕組み
6.全社的な IT システム構築のための体制
事業部門ごとに散在するシステムをつなぎ、経営戦略を実現できる「全社アーキテクチャ」を描ける体制を確保することが必須。「経営戦略を実現するために必要なデータとその活用、それに適した IT システムの全体設計(アーキテクチャ)を描ける体制・人材を確保できているか」と明示されています。
先行事例として、〈経営レベル/事業部門/DX 推進部門/情報システム部門〉で構成する少人数チームがトップダウンで変革を牽引したケースを紹介。情報システム部門が DX 推進部門を兼ねる形でも可としています。
7.全社的 IT システム構築に向けたガバナンス
新旧システムを円滑に連携させながら個別最適」や「ブラックボックス化」を避け、あくまで「全社最適」になるよう統制を効かせる仕組みを要求。
「IT システムが事業部門ごとに個別最適となることを回避し、全社最適となるよう、複雑化・ブラックボックス化しないためのガバナンスを確立しているか」と指摘しています。
8.ベンダー丸投げを防ぐガバナンス
システム連携基盤の企画・要件定義はユーザー企業自らが担うことを強調。「ベンダー企業に丸投げせず、ユーザ企業自ら要件定義を行っているか」と警鐘を鳴らしています。
失敗例として「提案を鵜呑みにする」「実績重視で旧来ベンダーに依存」「CIOすらリスク説明を避ける」といった行動を列挙しています。
9.事業部門のオーナーシップと要件定義能力
各事業部門が DX で実現したい“事業企画・業務企画”を自ら明確化し、ベンダー提案を取捨選択したうえで要件定義・完成責任まで負うことが求められます。「要件はユーザ企業が確定する」「要件定義の丸投げはしない」と明記しています。
失敗例には「情報システム部門任せで満足できないシステム」「要件定義を請負契約にしてブラックボックス化」「既存システム仕様が不明確なまま現行機能保証を要求」などが挙げられています。
(2)DXを実現する上で基盤となるITシステムの構築 (2)-2 実行プロセス
10.IT 資産の分析・評価
現行 IT 資産(老朽化・重複・未使用システムを含む)の棚卸しを定期的に実施し、事実データを基に評価すること。ガイドラインではシンプルに「IT 資産の現状を分析・評価できているか」と問うています。
11.IT 資産の仕分けとプランニング
バリューチェーン上の強み・弱み、競争領域/協調領域の区分、全社データ連携の要件を踏まえたうえで、「どのシステムに投資し、どれを廃棄するか」を計画することを推奨しています。具体的には
- 競争領域へリソースを集中し、協調領域は標準パッケージや共通 PF を活用
- サンクコストとなるシステムは潔く撤去
- 技術的負債を低減し「再レガシー化」を回避
先行事例として「IT 資産を分析した結果、半分以上が停止しても問題ないと判明し廃棄を決断」「標準化した IT に業務側を合わせるため、カスタマイズには経営者承認を必須化」といった具体策を紹介しています。
12.刷新後 IT システム:変化への追従力
新たなデジタル技術を積極的に取り込み、ビジネスモデル変化に迅速に追従できることがゴール。「IT システムができたかどうかではなく、ビジネスがうまくいったかどうかで評価する仕組みとなっているか」と評価基準を定義しています。
失敗例には「刷新自体が目的化し、目的不在のシステムが再レガシー化する」ケースが挙げられています。
まとめ
経済産業省が示す「DX推進ガイドライン Ver.1.0」は、日本企業が本格的なデジタルトランスフォーメーションを進める上で、経営・ビジネス・ITの全方位的な変革に不可欠な原典資料です。
DX推進担当者や経営層は、本ガイドラインを基準に自社の取組を評価・推進することが推奨されます。
ガイドライン原典PDFダウンロード
デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver.1.0(PDF)

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
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