本記事は、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に携わる担当者が必ず押さえておくべき重要用語を解説するガイドです。
DXは単なるITツールの導入ではなく、データとデジタル技術を活用してビジネスモデルや組織文化までを変革し、競争上の優位性を確立することです。この複雑な変革を進める上で、組織内で用語の共通理解を持つことは極めて重要です。
本用語集は、これらの背景を踏まえ、『1冊目に読みたいDXの教科書』から主要な用語を参照・解説し、DX推進の実践に役立つ知識を提供することを目的としています。
目次
DX推進に欠かせない基礎用語
DXを推進するうえで、必ず理解しておきたい基礎用語をまとめました。
DX(デジタルトランスフォーメーション)
2004年にエリック・ストルターマン教授が提唱した言葉で、当初は「デジタル技術が人々の生活のあらゆる側面に与える変化」と定義されました。2011年頃からは、企業がデジタル技術による環境変化に対応し、競争力と企業価値を高める変革活動として使われています。経済産業省は「データとデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルや業務、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。2022年には社会のDX、行政のDX、企業のDXに細分化されましたが、日本では企業のDXを指すことが多いです。
データドリブン
収集したデータを基に、アルゴリズム(判断ロジック)に基づいて意思決定を行うことを指します。主観に頼るのではなく、客観的なデータで迅速かつ正確な判断を可能にします。第四次産業革命における新しい競争原理、すなわち「データに基づいて高速にサービス改善を行うこと」を満たすために不可欠な考え方です。サービスの迅速な改善、指標の統一による認識の共通化、意思決定プロセスの透明化などのメリットがあります。
IT化
人の手で行っていた業務をシステムに置き換えることを指します。紙の情報をデータ化する、業務フローをシステム化するなどが該当します。DX推進の初期段階で取り組まれることが多いですが、主に既存業務の効率化や最適化を目的としており、価値や提供の仕組みを変えるDXとは区別されます。
デジタル化(データを活用できる状態)
DXにおいて必要となるデジタル化は、単にデジタルツールを導入することではなく、「データを活用できる状態」にすることです。これは、①蓄積されたデータが取り出せる、②取り出したデータが汎用フォーマットである、③データが価値や意味のある情報を含んでいる、という3つの条件を満たす必要があります。業務プロセス全体の最適化や新しい価値創造のための必須条件となります。
デジタルシフト
IT化やカイゼンが進んだ状態の先にある、業務システム全体をシステムでつなげて最適化することを指します。従来の業務プロセスをデジタルに置き換える意味合いが強く、価値や提供の仕組みを見直すDXとは異なります。定型業務の工数削減、業務効率化、さまざまなデータの獲得につながり、DXで目指す姿を描きにくい場合の着手点としても有効です。
カイゼン(既存事業のカイゼンDX)
デジタル技術を活用して、業務プロセス全体を最適化し、高い品質を追求する活動を指します。主に既存事業の改善や最適化が主眼であり、DXで実現する新しい価値の創造とは区別されます。新しい価値創造が難しい場合など、既存事業のカイゼンをDXの最初のステップと位置づけることもありますが、中長期的なDXのビジョンとの整合性を考慮することが重要です。
DX推進を成功させる経営・戦略関連用語
DXの推進を成功させるために不可欠な、経営・戦略分野の主要用語をまとめました。
DXのビジョン
DXは組織全体での大規模な変革であり、成功には何を、なぜ、どのように実現したいのかという目的や方向性を明確にするDXのビジョンの策定が必須です。ビジョンには、事業環境の変化、競争の原理の変化、目指す価値や提供の仕組み、組織の役割、変革要素、スケジュールなどを記載し、全社員が理解・参照できる状態にします。ビジョンが不明確なままでは、取り組みが部分最適に留まり、「DXごっこ」となり失敗に終わる可能性が高まります。>
デジタル戦略
デジタル戦略とは、DXのビジョンで掲げる価値を、どの顧客に、どのように提供して実現するかを、事業や商品サービスごとに具体化した計画です。上位概念であるDXのビジョンとの整合性をとりつつ、顧客課題に着目し、新しい価値を創造するための実行可能な計画を策定することが重要です。デジタル戦略の立案に際しては、事業の特性や業界内のポジションに応じて最適な手法を選択する必要があります。
コトづくり
従来の「モノ」の販売から、顧客の体験価値を高める「コトづくり」へのシフトは、DXにおける重要な提供価値の変化です。顧客の行動プロセス全体に着目し、顧客の課題を「面」で解決できる価値を提供することを指します。例えば、単に重機を販売するだけでなく、工事全体の計画立案から施工、報告までを支援するデジタルサービスを提供し、顧客が計画通りに工事を完了できることを価値とするような取り組みです。/p>
体験価値
体験価値とは、購買行動や消費行動を通じて顧客が得る新しい価値であり、全体データに基づくサービス自体の価値と、各顧客の行動データや属性データに基づくパーソナライズされた価値で構成されます。データを活用したPDCAによって体験価値は高まり、特に模倣されにくいパーソナライズされた価値が顧客エンゲージメントを生み出し、競争優位の源泉となります。企業は、この体験価値を継続的に向上させるサービスを提供することが、これからの競争力や価値に大きく寄与します。
リーンスタートアップ
リーンスタートアップは、新しいサービスを構築する際に、ムダを最小限に抑え、素早く顧客ニーズとの適合性を検証する手法です。完璧な製品を目指すのではなく、チラシや試作品などのMVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる最小限の製品やサービスで顧客ニーズを確認し、顧客からのフィードバックに基づいて軌道修正(ピボット)を繰り返します。これにより、需要のないサービス開発に多大な時間とコストを費やすリスクを回避できます。
OMO(Online Merges with Offline)
OMO(Online Merges with Offline)は、オンラインとオフラインを融合させ、顧客にseamless(分断のない)な体験を提供する戦略です。リアル商品をデジタルサービスに組み込んでより大きな価値を提供する包含戦略の一種であり、リアル商品を持つ企業にとって特に有効です。顧客がオンラインとオフラインのチャネルを自由に行き来しながら、一貫したサービスやパーソナライズされた体験を受けられる状態を目指します。
サブスクリプション戦略
サブスクリプション戦略は、顧客が商品を所有せず、定期的な利用料を支払ってサービスを利用する形態(サブスク)で提供する戦略です。顧客の離脱を防ぐために顧客満足を最優先に設計されるため、顧客にとって最適なサービスになりやすい特徴があります。商品販売における企業と顧客の利害対立を、継続的なサポートを通じた信頼関係に変えることができ、顧客エンゲージメントの向上に貢献します。
ディスラプション
ディスラプションとは、デジタル技術を活用した画期的な製品やサービスの登場により、業界の価値や構造が破壊的に再編される現象を指します。この再編を引き起こす企業をディスラプターと呼び、異業種やスタートアップ企業がなることもあります。ディスラプションは、形のある商品のデジタル化(転換)、リアル商品のデジタルサービスへの組み込み(包含)、商品販売と購買支援の分離といったメカニズムで発生することがあります。
プラットフォーマー
プラットフォーマーとは、データを蓄積・活用して顧客体験を高め続ける基盤(プラットフォーム)を使い、広範な顧客にサービスを提供する企業です。プラットフォーマーは顧客との接点とデータを独占することで業界内で重要なポジションを占め、データを活用して異業種にも事業を拡大することで、既存事業者との差を広げます。複数のユーザーグループに価値を提供するマルチサイドプラットフォームを構築し、業界総取りを目指す場合もあります。
エコシステム
エコシステムとは、ディスラプションが進んだ業界において、業界全体の価値提供を最適化するために企業間のつながりが相互に進化していくビジネス構造です。自然界の生態系に似ており、誰からどのような価値提供を受け、誰に価値提供するかという相互依存関係が形成されます。新しいエコシステムの中で自社をどこに位置づけ、どのような価値提供を行うかが、それぞれの組織にとって重要なテーマとなります。
サクセストラップ
サクセストラップとは、企業の過去の成功体験に基づいた最適な組織行動や、それを維持するための評価手法、ガバナンス、組織文化などが、新しい価値創造への挑戦を阻害してしまう問題です。新しい挑戦は従来の行動と異なるため、間違っていると捉えられ、評価されず挑戦自体が行われなくなります。事業環境の変化や新しい競争の原理を学び、従来の常識が今も正しいか客観的に判断する力を身につけることで乗り越える必要があります。
両利きの経営
企業が変化し続ける環境に適応し生き残るためには、「既存事業の深化」(既存事業のサービス改善)と「新しい価値や提供の仕組みの探索」(新しいビジネスモデルの創造)の両立が必要です。この両立を可能にする組織能力を両利きの経営と呼び、企業の中長期的な競争優位性の源泉となります。探索する組織には、従来の評価制度とは異なる新しい評価制度の整備が必要であり、企業に大きな変革が求められます。
DXの推進に必要な組織構造と人材に関連する用語
DXを推進するうえで不可欠な、組織行動・人材関連のキーワードをまとめました。
組織行動の変革
DXは新しい価値やサービスを創造するだけでなく、それを実現するために組織全体のあるべき行動に変革する必要があります。習慣化され無意識に定着した組織行動の変革は、DXの最大の難所とされています。新しい価値や提供の仕組みに対応するため、現場社員から顧客と直接関わらない社員まで、役割の変化が求められます。組織行動を変えるには、従来の価値観に最適化された業務手順、ルール、評価制度などの「マネジメントの仕組み」を見直すことが必要です。トップの強いリーダーシップによる全社員の意識変革が不可欠です。
CDO(Chief Digital Officer)
CDO(Chief Digital Officer)は、DX推進部門の責任者であり、全社のDXの執行責任と権限を持つ役職です。DX固有の課題であるデジタル技術やデータ活用の壁を打破するために必要とされます。CDOには、各事業部のサービス構想支援、必要な機能・運用要件決定、デジタルプラットフォームやデータドリブン基盤の整備などが求められるため、業務理解、デジタル技術・データ活用の知見、コミュニケーション力といった幅広いスキルが求められます。比較的新しい役職であり経験者が少ないため、CIOや事業部門、外部人材など多様なバックグラウンドから人選されますが、適切な資質の見極めが重要です。
DX推進チーム
DX推進チームの基本的な役割は、策定されたDXのビジョンを社内に周知啓蒙すること、現場の課題や社員の感情を吸い上げること、各部門のデジタル戦略やアクションの整合性を調整することです。必要に応じてデジタルプラットフォーム構築やデータドリブン導入といった技術支援も行います。最も重要なスキルはコミュニケーション力であり、特に社内通のメンバーを入れることで、各部門と良好な関係を築きながら変革を加速させることが求められます。DX推進チームは、専任の役員(CDO)と数名の専任メンバーで構成し、経営トップの直下に設置して密に連携することが重要です。
DX人材(デジタル人材)
DX人材(デジタル人材)とは、デジタル技術の知見と業務の知見を兼ね備え、主体的に「価値創造」や「企業価値の向上」に活用できる人材を指します。DX推進において、システム開発の内製化やアジャイル開発に必要なIT人材も含まれますが、DX人材は組織の全ての構成員が目指すべき姿であり、デジタル技術を活用して新しい競争の原理に適応した価値を創造し、業務を効率化することが求められます。この新しい戦い方のルール(デジタル技術の活用)を組織全体で学ぶ必要があります。採用・育成においては、ITスキルだけでなく、DXの背景や事例、戦略立案やデザイン思考などの研修が有効です。
DXを推進するための具体的な業務プロセスや手法関連用語
DXを進めるうえで知っておきたい主要な業務プロセス・手法をまとめました。
アジャイル開発
アジャイル開発は、システム開発において、計画・設計・実装・テストの工程を小さなサイクルで繰り返し行う手法です。従来のウォーターフォール開発のように全ての要件を最初に固めるのではなく、開発途中で顧客やユーザーからのフィードバックを迅速に反映させ、軌道修正(ピボット)を行いながら開発を進めます。これにより、市場や顧客ニーズの変化に素早く対応し、手戻りや不要な機能開発のムダを減らすことができます。DXにおけるシステム開発の内製化にも関連が深く、スピードが重要な要素となります。
デザイン思考
デザイン思考は、顧客への深い共感や理解(エンパシー)を出発点とし、観察やヒアリングを通じて顧客自身も気づいていない潜在的な課題を発見する思考法・手法です。発見した課題に対して、既知のセオリーにとらわれず、自由な発想でアイデアを創造し(ブレインストーミング)、それを素早く試作品(プロトタイプ)として形にして顧客に提示し、フィードバックを得ながら検証と改善を繰り返します。DXにおける新しい価値創造や顧客体験の設計において、顧客理解を深めるための重要な手法となります。
カスタマージャーニーマップ
カスタマージャーニーマップは、顧客が特定の製品やサービスを知ってから、購買、そして利用に至るまでの一連のプロセスを旅(ジャーニー)にたとえ、可視化したものです。顧客の各ステップでの行動、感情、思考、そしてそれに伴う課題(不満)やニーズを詳細に洗い出すために活用されます。マップを作成することで、顧客視点での課題や、オンラインとオフラインの顧客接点における改善点を発見しやすくなり、最適な顧客体験を設計するための強力なツールとなります。新しいサービスの構想段階や、既存サービスの改善にも有効です。
DX推進に不可欠な技術とツールに関する用語
DXを推進するうえで重要なテクノロジーやツールに関する基本用語をまとめました。
IoT(Internet of Things)
IoT(Internet of Things)は、さまざまな「モノ」をインターネットに接続し、モノの状態把握、操作、またはモノ同士の対話を実現する技術です。工場での不良品検知、農作物の生育状況把握、遠隔での機械操作など、リアル空間の情報をデータとして収集・活用することを可能にします。IoTの活用が進むと、人の仕事は現場での作業から、遠隔地での判断やデータを有効活用する仕組みを考えることへとシフトしていきます。
5G(第5世代移動体通信システム)
5G(第5世代移動体通信システム)は、従来の移動体通信規格と比較して、高速大容量、高信頼・低遅延、多数同時接続という3つの特徴を持つ通信技術です。これにより、3次元の空間情報の高速送受信や、遅延が許されない遠隔手術、自動運転といったリアル空間での高品質な通信を可能にします。また、IoTと組み合わせることで、自動車や家電などあらゆるモノが同時にネットワークに接続できるようになり、DXによるオンライン活用の制約を大幅に解消します。
ビッグデータ(4V)
ビッグデータは、リアル空間やデジタル空間から収集される、量、多様性、速度、正確性(4V:Volume, Variety, Velocity, Veracity)が特徴の膨大なデータ群です。コンピューターの処理能力向上やクラウドの発達により、多様かつ大量のデータを瞬時に、客観的かつ正確に扱えるようになりました。DXにおけるデータドリブンな意思決定の基盤となるだけでなく、人が気づかなかった未知の概念や知見を発見するための材料としても活用されます。
データサイエンス
データサイエンスは、ビッグデータから価値ある情報を取り出し、業務知見に基づく仮説を立てて検証する技術や行為を指します。この役割を担うのがデータサイエンティストで、データ管理の基礎(データエンジニアリング)、分析スキル、そして業務の知見を兼ね備える必要があります。データサイエンスを活用することで、データに基づいたサービス改善や事業意思決定(データドリブン)が可能になります。継続的な取り組みのためには、社内チームの組成と内部人材育成が重要です。
人工知能(AI)
人工知能(AI)は、人の知能を模した思考や判断を行う機械(広義)であり、特に注目される一分野に機械学習があります。機械学習では、データに基づいて機械が自律的に学習し、未来予測や最適化を行うアルゴリズム(学習済みモデル)を構築します。需要予測、リコメンデーションなど業務における活用が進み、サービスを自律的に改善・最適化することを可能にします。
ロボット技術
ロボット技術は、リアル空間で人の手足に代わり業務を実行する機械技術の総称です。工場での生産ライン作業、重量物運搬、人が立ち入れない危険な場所での作業、遠隔手術、ドローンによる撮影・運搬など、幅広い分野で活用が進んでいます。機械学習と組み合わせることで、指示された動作だけでなく、自律的な性能改善も可能になっています。
RPA(Robotic Process Automation)技術
RPA(Robotic Process Automation)技術は、デジタル空間で人の定型業務を代替するロボット技術です。パソコンを操作する透明人間のように、ルールや手順に基づきメールソフトや業務システム操作、情報収集などの定型業務を高速かつ正確に実行できます。主に現行業務の自動化・効率化が目的であり、新しい価値創造や全体最適化に直結しにくい点に留意が必要ですが、RPAで削減した時間やコストをDXのための活動に振り分けることが有効です。
クラウドコンピューティング(クラウド)
クラウドコンピューティング(クラウド)は、サーバーなどのIT資産を自社で所有せず、インターネット経由でベンダーからサービスとして利用する形態です。最大のメリットは敏捷性であり、物理的なIT資産の管理から解放され、サービスの迅速な開始・終了や需要に応じたリソース増減が容易になります。IaaS、PaaS、SaaSといった形態があり、DX推進においては、構築の手間が最も少ないSaaSから導入を検討することが推奨されます。
注目すべき最先端技術に関する用語
DXとともに注目される最新テクノロジーや未来を左右する概念について解説します。
Web3
Web3(ウェブスリー)は、ブロックチェーン技術に支えられた、情報やデータを利用者自身が管理・所有する分散管理のインターネットの概念です。中央集権的なWeb2.0とは異なり、NFT(非流動性トークン)やスマートコントラクトといった技術が活用され、仮想空間(メタバース)での経済活動や、分散型自律組織(DAO)といった新しい組織運営形態を可能にすると期待されています。社会や経済のあり方を大きく変える可能性を秘めています。
メタバース
メタバースは、リアル空間を模した、コンピューターネットワーク上に構築された仮想空間です。ユーザーは自身のアバターを操作し、メタバース内で他のユーザーと交流したり、コンテンツを楽しんだり、取引やビジネスを行うことも可能です。ブロックチェーンやNFTといった技術と連携することで、仮想空間上に新しい経済圏が出現しつつあり、私たちの生活空間が将来的にメタバースに移行する可能性も示唆されています。
シンギュラリティ
シンギュラリティとは、一般的に2045年頃に訪れるとされる、人工知能(AI)が人間の知能を超える技術的特異点を指す概念です。AIが自身の能力を超える、より高度なAIを自律的に開発できるようになると予測されており、その進化は人間が制御できないものになると考えられています。シンギュラリティ実現の技術はまだ存在しませんが、生命科学などの発展とともに、その可能性について議論されています。
まとめ
DX推進に不可欠な重要用語を「基本概念」「経営・戦略」「組織・人材」「プロセス・手法」「デジタル技術」「最新テクノロジー」のカテゴリに分けて解説しました。DXは、データとデジタル技術を活用し、ビジネスモデルや組織文化をも変革して競争優位を確立する取り組みであり、その成功には組織全体での用語の共通理解が不可欠です。この複雑かつ継続的な変革を成功に導くために、DX推進担当者が特に意識すべき実践的なポイントを以下にまとめます。
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トップの強いリーダーシップを引き出す・連携する
DXは組織を挙げた大規模な変革であり、経営トップの理解と強いリーダーシップが成功の起点となります。経営トップが危機感を共有し、あるべき方向性を自身の言葉で語ることで、全社員の意識変革を促せます。DX推進担当者は、経営陣にDXの必要性を気づかせ、変革の推進力となってもらうためのアプローチや、密な連携体制の構築が重要です。 -
組織行動の変革に粘り強く取り組む
新しい価値創造やデジタル技術の活用を阻む最大の壁は、長年の慣習で定着した組織行動です。これを変革するには、単なる意識改革だけでなく、評価制度、業務手順、ルールなどの「マネジメントの仕組み」を新しいあるべき姿に合わせて見直すことが不可欠です。部門横断での連携強化や、行動変容に取り組んだ社員を評価・支援する施策も重要となります。 -
データドリブンな意思決定を組織に浸透させる
第四次産業革命における新しい競争の原理は、データに基づいてサービスを高速に改善することです。DX推進担当者は、「データを活用できる状態」を整備し、経験や勘に頼らないデータに基づいた迅速かつ正確な意思決定(データドリブン)を、サービス改善から事業判断に至るまで組織全体で実践できるように働きかける必要があります。 -
顧客視点を徹底し、体験価値の創造を目指す
DXの目的は、デジタル技術を手段として新しい価値を創造し、顧客体験価値(コト)を向上させることです。顧客への深い共感(デザイン思考)や、顧客行動の可視化(カスタマージャーニーマップ)を通じて顧客自身も気づいていない潜在的な課題を発見し、それを解決するサービスを構想することが重要です。特に、データに基づいてパーソナライズされた価値提供は、模倣されにくい競争優位の源泉となります。 -
環境変化に対応し、学び続ける姿勢を持つ
DXは一度達成すれば終わりではなく、変化し続ける事業環境に適応するための継続的な取り組みです。企業としては、既存事業の深化と新しい価値の探索を両立する「両利きの経営」を目指し、個人としては、デジタル技術の進化や新しい競争原理に対応できるよう、常に学び(リスキリング)、常識を疑い、課題を発見・定義し、他者を巻き込むコミュニケーション力を磨き続けることが求められます。
本用語集が、DX推進における共通理解を深め、皆様がこれらのポイントを実践する一助となれば幸いです。
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