昨今、多くの企業で、DX人材、デジタル人材を育成、採用する活動が活発になっています。しかし、そのような組織の多くが、DXプロジェクトのリーダーシップの課題に直面して苦労しているのを見かけます。今回は、そのような組織における経営層DXリテラシーの重要性について考えます。

デジタル人材教育を求める取締役会が一番アナログな問題
目次
DXを成功させるための方向性と達成要因

(経済産業省のDXレポート2.2を一部要約)
経済産業省のDXレポート2.2にも記載がある通り、新規デジタルビジネスの創出が成功の方向性として明記されており、変革達成の要因としては、CEO、CDO、CIOなどの経営層がビジョンや具体的なアクションを示すことの重要性が強調されています。つまり、社員だけでなく、経営層のDXリテラシーが重要と言えます。
経営層のDXリテラシーが重要な理由
なぜ、経営層のDXリテラシーが高くないといけないのでしょうか。DX推進チームや現場がDXリテラシーが高いだけではいけないのでしょうか。ここで、一度何のためにDXをするのかを振り返る必要があります。
なぜDXが必要なのか

(DXが必要な理由)
DXが必要な理由は、環境の変化に伴い、顧客や市場が求めているニーズの変化に伴い、業界や企業の価値提供の仕組み(ビジネスモデル)にも適応が求められることです。結果的に、単に戦略を一新するだけでなく、そのような新しいビジネスモデルを産み出せる組織行動に変革しなければなりませんし、新しいデジタルサービスを支えるオペレーションという観点でも、新しい組織行動が求められます。つまり、提供価値や価値提供の仕組みを変えるためには、多くの経営資源のあるべき姿を再設計し、最新の環境ないし近い将来の環境に最適化するための変革を進める必要があります。
変革とビジョン

変革とは何か
これらの変革においては、変革の目的、具体的な変革のアクションを示すことが重要であり、その方向性を決定し、執行できるのは、経営層に他ならないためです。

(DXのビジョンのイメージ)
これらの目的や基本方針、またセグメントごとに何をするべきかを具体化し、現場が変革のためのアクションをとるためには、DXのビジョンを策定し、組織全体の理解を一致させる必要があります。中でも役員全員が共通理解を持っていることが特に重要であり、役員がDXについての理解を共通化し、一枚岩になっていることが求められます。
経営層がビジョンやアクションを描きにくい理由
多くの組織で経営層がDX推進に向けた明確なビジョンや具体的なアクションを打ち出せない背景には、主に3つの要因が存在します。

(経営層がビジョンやアクションを構想しにくい原因)
1. 環境変化への危機感不足
経営層は、日々さまざまな情報に触れてはいるものの、現場の社員と比べて顧客や市場のニーズ変化に対する“肌感覚”を得にくい立場にあります。
特に新たなニーズを持つ顧客層は、既存の取引先とは異なるケースが多く、日常的な商談や取引先との会話からは市場変化の本質が掴みにくい場合も少なくありません。
その結果、環境変化のスピードや危機感を自分ごととして実感しにくく、アクションへの具体性が生まれにくい状況が生じます。
2. サクセストラップ(過去の成功体験の呪縛)
ビジネス環境が大きく変化し、「業界で成功する法則」自体が書き換わろうとしている今、経営層は過去の成功体験が判断基準となりやすい傾向があります。
現在のポジションを築いた要因が、かつての競争原理に基づくものであればあるほど、新たな原理や価値観への転換に心理的な抵抗を感じやすくなります。
これは、これまでの自分自身の実績や存在意義が否定されるのではないかという無意識の不安が影響している場合もあります。
3. デジタルリテラシーの課題
日本企業の経営層は、豊富なビジネス経験を持つ一方で、デジタル技術への理解や親しみが十分でないケースも見受けられます。
特にデジタルネイティブ世代ではない経営層の場合、デジタルサービスや戦略のイメージが具体的に湧きづらく、どのように自社のDXを進めていくべきか主体的に考え抜くハードルが高くなりがちです。
この“解像度の低さ”が、ビジョンやアクションの具体化を難しくしている要因の一つとなっています。
経営層向けDX研修とは
このような経営層の特徴を考慮し、経営層がDXを主体的に推進するためには、DXリテラシーのリスキリングが必要となります。また、単にリスキリングをするだけにとどまらず、自社ではどのようなDXを進めるべきかという構想を経営層で一緒に考え、アウトプットすることが重要です。
「役員を集めて研修するなんて、無理・・・」
と思われる方も多いことでしょう。しかし、多くの組織がすでにこれに挑戦し、DXの加速に繋げる成果を出しています。

(経営層DX研修の流れの例)
「時間をかけてDXについて学ぶなんて・・・」
と経営層が考えている時点では、無理をせず、単発の勉強会として「DX研修」をセットアップします。つまり、Day2以降の存在は原則明かさずに、ハードルを極力下げて開催することになります。一般的には、経営企画部長、秘書課長、CDO/CIO、DX推進部長など、役員の皆様のスケジュールを抑えられるお立場の皆様が連携してスケジューリングすることになります。
この研修は、入念な準備が必要です。軽い気持ちで開催し、役員の反発を招くと、役員の関心をDXに集めることは困難となり、その組織では、二度と組織だったDXを進められなくなってしまうためです。研修の講師は関係部門と細かい打合せをしつつ、以下のようにプランニングを進めます。
- 講義を通じて環境の変化、競争の原理の変化に危機感を持っていただくストーリーとする
- 競合や顧客などを調査し、よりリアル感のある事例などを用意する
- 業界や競争の原理の変化について、教えられるのではなく自ら気づいていただく演出とする(自ら気づくことにより周囲に説明し巻き込める状態となるため)
- 各役員がDXで何をしたいと考えているかがある場合は、事前に把握する
- 各役員の間の利害関係を理解し、予想される対立や課題の対策をとる
- Day2以降のシナリオを事前に想定する
Day2以降への足掛かり
Day1において最も重要なことは、「業界の競争原理の変化」に危機感を持っていただくことであり、この点を達成できれば、場のトップである社長が
「俺たちはDXについてよく知らないまま部下に丸投げしていた」
「この研修を続けて、みんなでDXの戦略を考えなければいけない」
「自分たちが最初にDXリテラシーを高めないとDXは成功しない」
などの発言をしていただけます。CDOやCIOが企画側にいらっしゃる場合は、社長のそのようなコメントを引き出すように誘導していただくことも有効です。

経営層が最初にDXリテラシーを高めないとDXは成功しない(イメージ)
この一言があれば、次回以降、社長をオーナーとして、具体的にDXの方向性やデジタル戦略を検討する経営層DX研修を設計していくことが可能となります。
弊社では、これまでの経営層DX研修の経験を活かし、この言葉を確実に引き出せるように研修を準備段階からお手伝いしております。
組織全体のリスキリング
経営層DX研修のアウトプットとしてDXのビジョンが出来た場合、それを組織全体に正しく伝えること、さらに組織全体のDXリテラシーを高めることが必要となります。それぞれが異なるDXを学んでしまうと、組織としての意思がバラバラになってしまうため、役員DX研修を始めとする集合研修、組織全体で都合のよいタイミングで受講できる書籍やオンライン動画による研修など、体系的な組織全体での学びが必要となります。

同一体系で組織全体がDXを学ぶためのメニュー(例:弊社提供サービス)
また、学ぶ内容については、組織に所属する一員一員の役割に応じて、取捨選択して学べることも必要です。これらの体系化されている学びが経営層DX研修と整合性がとられていることが、齟齬のない変革を進めるために必要となります。

オンラインスクールで提供する講座の一部の例
まとめ
一歩踏み出す勇気
経営層DX研修に一歩踏み出す勇気を持てない方も多いかと思います。しかし、避けていては、DXの成功はありません。
ご自身の頭の中にあるDXのビジョンに対して、前進するためのアクションを日々実施されている方は多いかと思います。しかし、重要なのは、経営層、役員全員にオーソライズされたビジョンです。それがなければ、施策1つ1つに対して、ROIや目的を説明する作業が発生し、DXは時間ばかり取られた結果、空中分解します。
皆様の努力を水泡にしないためにも、ぜひ、弊社にご相談いただければと存じます。
まずは隗(かい)より始めよ
中国の故事に「まずは隗(かい)より始めよ」という言葉があります。事を始めるには、自分からやりださなければならないという意味です。経営層がDX人材を増やす号令をかけるならば、まずどのようなDX人材を増やすのか、どのような目的で必要なのかといった具体的なイメージがなければ、人事部門も有効なアクションがとれないことでしょう。そのため、まず経営層が自らDX人材になることが必要です。
関連情報
- 関連研修→ 経営層向け DX 研修【企業変革を牽引するエグゼクティブプログラム】
- 研修事例→ 「DX研修事例」トップページ
執筆者:デジタルトランスフォーメーション研究所 代表取締役 DXエバンジェリスト 荒瀬光宏|荒瀬光宏 プロフィール
コメント