新内閣発足以降、デジタル庁の新設や自治体のDX推進など、DX関連のニュースが行政界隈で急増しています。
これらは素晴らしい第一歩ですが、行政におけるDXは民間のDXよりも難易度が高いのが実情です。その理由は大きく分けて以下のとおりです。
- 優秀な公務員ほど変革しにくい
- 縦割りの組織文化
- レギュレーション・法制度
- 市場原理が働かない
以下では、個別に難所となる理由とその対策について解説します。
1.優秀な公務員ほど変革しにくい
DXは、新しい市場環境における事業の在り方を再検討し、これまでの組織の提供価値や戦略を見直す変革です。しかし、その最大の難所は戦略や仕組みの変更ではなく、人の行動を変えることにあります。民間DXでも大きな壁となっていますが、行政ではそのハードルがさらに高いのが現状です。
これまで、公務員はプロセスを理解し、ルールや上司の命令に従うことが優秀とされてきました。民間企業に比べてこの傾向が強いのは明らかです。行政の影響を受けやすい銀行などの業界にも同様の傾向が見られ、ドラマ『半沢直樹』でも象徴的に描かれています。
従来の行動様式を変えることは簡単ではありません。どのようなDXを行い、どのような行動変容を期待しているかを明確に示し(例:弊社DX憲章策定支援など)、トップやマネジメント層が率先して変わる姿を示すことが重要です。また、DXに関する基礎知識や事例を学ぶ勉強会をオンラインスクール等で開催する(例:弊社DX実践道場など)ことも有効です。さらに、小さな成功事例を内外に共有し、職員の「変わりたい」「変えたい」という意欲を後押しする研修(例:弊社プロジェクト伴走型研修など)や、住民との対話を加速させる仕組みの構築を同時並行で進めることが求められます。
2.縦割りの組織文化
利用者視点でサービスを設計する、業務効率を高める、新しい課題を解決する――これらを実現するには組織横断的な取り組みが欠かせません。従来の組織やプロセスでは解決できない課題が多いからです。
新内閣は縦割りの弊害に警鐘を鳴らし、「縦割り110番」を設置しました。しかし、以前から指摘され続けている問題であり、根本的な解決は容易ではありません。
個人単位の行動変容だけでは不十分です。マネジメント層や現場が横のコミュニケーションを取らざるを得ない状況にすることが第一歩となります。有効な施策としては、クロスファンクショナルチームを組成し、部門横断で新サービスや課題解決に取り組むことが挙げられます。その際、組織横断プロジェクトを研修と兼ねて実施する(例:弊社プロジェクト伴走型研修など)ほか、Slack・Chatwork・LGWAN上のLOGOチャットなどのコラボレーションツールを活用することも効果的です。
自治体であれば首長、中央官庁であれば内閣がこれらプロジェクトを牽引する役割を担います。トップのリーダーシップの下、組織横断コミュニケーションを活性化し、KPIの測定と改善を継続的に実行することが必要です。
3.レギュレーション・法制度
DXの成果を出すためには新しいサービスを創出し課題を解決することが求められますが、日本ではデジタル化を阻む法制度が多いのが課題です。公文書への公印や手書き署名、押印が必要な手続きはデジタル化を妨げています。電子政府先進国のエストニアと比べれば、無駄と非効率の塊であることは多くの専門家が指摘しています。
UXを最適化するには個人情報の活用が不可欠ですが、マイナンバーをはじめとする個人情報の利用には依然として制約が多いのが現状です。デジタル弱者への配慮も必要ですが、デジタルを活用して行き届いたサービスを設計することは可能であり、本質的な問題ではありません。これらレギュレーションの問題は法制度の変更で対応できます。日本が豊かな経済を維持するためには、規制緩和に最優先で取り組むことが必要です。
自治体の場合、規制緩和が進まなくてもできることは多くあります。条例の改正、国への法改正要望、スーパーシティ特区への応募などの手段に加え、先入観や慣習で「できない」と思い込んでいないかの確認も大切です。他の自治体の取り組みを参考に連携を図るなど、模索を続ける姿勢が求められます。成功の絶対条件は「諦めないこと」です。
4.市場原理が働かない
民間企業もDXに苦しんでいますが、効率化や提供価値を追求しないと市場の競争原理により淘汰されます。その結果、収益確保や存在意義を追求するために自ら変革し進化する作用が働きます。一方、行政では税金という収入ありきで物事が進むため、予算を消化すること自体が評価されるなど、民間企業では考えられない仕組みが存在します。
首長の交代や内閣の改編はあるにせよ、市場原理が十分に働く状況には遠いのが現実です。組織内の管理手法を変える必要があります。年間の予算計画や執行方法は、変動する社会環境への対応に適していません。思い切ったリーダーシップで管理指標や人事評価手法を刷新・運用する必要がありますが、組合や既得権益からの反発も想定されます。そのため、トップのビジョンを住民や組合などのステークホルダーと共有し、対話の場を設けて時間をかけることが重要です。
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執筆者:デジタルトランスフォーメーション研究所 代表取締役 DXエバンジェリスト 荒瀬光宏|荒瀬光宏 プロフィール
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