プッシュ型配信からプル型配信へ(企業の情報発信のあり方)

プッシュ型配信のオンラインによる進化

 これまで多くの人に自社の発表や新製品を知ってもらうためには、少しでも多くのメディアに取り上げてもらい、人の目に触れることが重要であった。そのメディアが紙やテレビなどのアナログ媒体であった頃からこの構図は確立され、どれだけたくさんのメディアに取り上げられ、取材を申し込まれるかなどが広報部門の腕の見せ所であった。

 多くの人の目に触れられれば、それだけ多くの潜在顧客層につながり、購入者につながり、企業の業績を底上げすることにつながった。

 これらのプッシュ配信については、多くのメディアに効率よく配信するサービスが次々と登場した。PRTIMESは、このような企業の配信効率をあげるニーズを満たすサービスで、月間5,200PVの利用実績を誇っている。

 これに対して、掲載するメディア側は、従来の情報を分析して記事に書くスタイルの採算性がとれないため、企業が発信するプレスリリースをそのまま転載するだけのオンラインメディアが増えた。

 さらにオンラインメディアをクリッピングし、それに対してエキスパートのコメントを加えることによりそこに新たな価値を生み出すNewsPicksのようなアグリゲーションサイトも様々な進化をとげた。

プッシュ型配信の価値の急落

 これらの効率化、進化により、企業や個人による情報発信が可能になったため、オンライン上で発信されるニュースの数は指数関数的に拡大した。情報を受けとる消費者にとっては、多くの発信源から出された情報から自身の興味関心に沿った情報を抜き出してくれる各種サービスを利用し始め、従来のようにニュースを編集部の裁量でひとまとめにして配達する新聞というサービスの利用者の減少に歯止めがかからない状態だ。

 私も、過去から今まで何度もプレスリリースをしてきたが、年々企業が発信する情報がターゲット層に届かなくなっている印象がある。プレスリリースしても転載メディアにとりあげられるのがほとんどで、主要紙に何か記事が掲載された際も、「新聞見たよー」と言われることが以前よりはるかに減ったと思う。

 SNSでのシェアも同様だ。いいねボタンはたくさんついても、それは頑張って発信している友人に敬意を示したり励ましたりしている程度であり、リンクをクリックしている人は極端に少ないことがデータで見て取れる。

 これらの事実をすべて総合すると、プッシュ型配信はその価値を失ったと言わざるを得ない。

プル型配信の有効性

 自分自身を情報の受け取り手として観察した時、限られた時間の中でゆっくり新聞や雑誌に目を通すことがあるとしたら、散髪中に時間を持て余している時くらいではなかろうか。では、どのように情報を取得しているかと言えば、自分が「必要な時に」「必要な場所で」「必要なチャネル(PCかスマホかタブレットかスマートスピーカーへの質問)で」「欲しい情報を」検索しているのである。

 このような必要性に迫られて検索し情報を取得することをプル型情報入手と言い、それに呼応する形で情報を配信することをプル型情報配信と呼ぶ。従来、情報の出してから送り出していたプッシュ型配信と全く異なる発想である。

 しかし、情報の受け手が必要な時に受け取るので、真剣に読んでもらえるし、次のアクションにもつながりやすい。

プル型配信を利用したコンテンツマーケティング

 プル型配信の上記の使われ方を考慮すると、まず検索するニーズがある情報であることが求められる。タイムリーな時事ネタや多くの方が感じている課題、オンライン上の様々な情報を集約した一覧など、様々な切り口のコンテンツが想定される。かつ発信者がコンテンツに関してのインサイトを所有し、さらにその企業のブランド向上や商品プロモーションに有効であることが一般的には前提となろうか。

 このようにプル型配信を前提とし、見つけてもらえるコンテンツを揃えて自社サイトの求心力を高めていくマーケティング手法をコンテンツマーケティングと呼ぶ。

 では、企業にとってのプル型配信を使ったコンテンツマーケティングには、どのようなものがあり、どう使い分けるべきか。

コンテンツマーケティングのバリエーション「ブログ」

 今皆様にご覧いただいているこの文章はブログというスタイルであり、企業が推敲を重ねて発信する静的なホームページとは別に、比較的柔軟に情報を発信する手段として以前から利用されている。このブログ自体をリンクすることにより、他のSNSやメッセンジャーなどで市場に発信することも可能であり、オンラインメディアにリンクという形で取り上げてもらうことも可能だ。さらに、SNSなどでいくらシェアを繰り返しても、紙などのアナログメディアと異なり、後から訂正・補足・削除などを実施することが随時可能で(企業発信情報を都度変えるのは別の問題はあるが)、シェアされた先をいちいち追いかけて訂正をする必要がないのは大きなメリットだ。

 さらに当該コンテンツをどのようなキーワードで検索して訪問してきたか、どこのリンクから来たか、どの地域から来たのか、どのような時間帯に来たのか、どの程度読んでもらったか、他のコンテンツに推移して読んだのか他のコンテンツには興味を示さなかったのか、何かしらのアクション(申し込みや購買など)をしたのかなど様々な分析画面が用意されており、自身のコンテンツの反応を知り、改善につなげていくことも容易だ。

 この文章をブログではなくメルマガというスタイルでご覧いただいている読者もいらっしゃると思う。メルマガは、プッシュ配信の代表格ではあるが、当社では、ブログで起稿させていただいたコンテンツを、DXに関心の高い皆様に配信するというコンテンツの二次利用をするツールにより、ブログとメルマガを同時に成立させていただいている。ブログで書いてもプル型情報収集で見つけていただけない場合も多いので、このようにプッシュ型配信と効率よく組み合わせることは有効だ。

弊社ブログ「DXラボ通信」

弊社メルマガ「DXラボニュースレター」申込先

コンテンツマーケティングのバリエーション?「SNS」

 バリエーション?と書いのは、SNSはプル型ではなく、どちらかというと、ニュースリリースに近いプッシュ型発信にあたる。敢えて、プル型情報発信に使うとすれば、ブログ同様にコンテンツを掲載し、人に見つけてもらう利用方法は可能だが、通常情報を検索する人は情報をSNSで検索せず、検索サイトで検索する為、ほとんど意味をなさない。FacebookやLinkedin、InstagramなどのSNSで情報発信をするメリットは、検索サイトのようにWEBの大海原に放り込んで見つけてもらう手法と比べて、ファンや緩い繋がりを持った方に優先的に目に止めていただける点と、有料広告として発信することにより、ターゲット層を絞りやすいことなどが挙げられる。Twitterについては、SNSの中では大海原に放り込むイメージが強く、タグをつけておけば、距離が遠い人にも見つけてもらえるケースが多い。

弊社Facebook「デジタルトランスフォーメーション研究所公式」

弊社Twitter「デジタルトランスフォーメーション研究所公式」

コンテンツマーケティングのバリエーション「YouTube」

 動画コンテンツのプラットフォームとして最も知名度が高く、もはや使ったことのない人はあまりいらっしゃらないのではなかろうか。

 実は弊社のインサイト(コンテンツ)を発信する際に、ブログとYouTubeと両方で発信することがありうる。これは、同じインサイトであっても、ブログでリーチできる層と動画でリーチできる層が異なるため、チャネルを使い分けているのだ。

 この2つのチャネルがリーチする先がそれぞれ異なる市場であることは、あまり認識されていない。しかし、世の中には情報をテキスト(ブログ、ホームページ、書籍、電子書籍、新聞)などで受け取りたい人と、動画で受け取りたい人に大別され、さらに、イラストや漫画、アニメなどで受け取りたい人など、様々なセグメントにわかれている。そして重要なのは、「動画でうけとりたい人」はすべての受け手は動画でうけとりたいはず、と思い込み、「テキストでうけとりたい人」はすべての受け手はテキストでうけとりたいはず、と思い込みやすい点だ。

 私は何かついて学びたい際は動画を検索してよいコンテンツを探す。動画の方がより五感に近く様々なインスピレーションを与えてくれるからだ。しかし、DXラボ通信の執筆者である”ちべ”氏は、何かについて学びたい際は書籍やオンライン上のテキストを検索してよいコンテンツを探す。動画よりも要点だけを拾い読むことが容易な上、どのような環境でも見ることができることが大きな理由らしい。つまり、その受け手がいつでも音を出してコンテンツを見れる環境にあるかどうかも、この市場を二分する大きな要因であり、動画を見たくない受け手にどれだけ動画を進めても、よほどのことがなければ見てもらえないのが現状である。つまり、自身がどちらのセグメントかを意識した上で、市場の受け手の多様性については常に意識することが肝要である

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 動画コンテンツ制作の最大の課題は、作るのが面倒である点だ。ブログなどのテキストコンテンツの制作に比べて格段の手間暇がかかる。もちろん、短編動画をスマホで撮影して、手軽にSNSに掲載する手法は増えてきているが、企業がプル型発信に利用するには、それなりの準備、撮影、編集作業が発生する。どのようなコンテンツを作るかによっては、スタジオ撮影、アニメ制作、凝った動画編集など、プロの手を借りなければならない場面も多い。

 しかし、動画の訴求力は五感に与える影響が高い。また、テレワークやテレカンの普及により、回線インフラも強化され、PCでもスマホでもイヤホンやヘッドセットを使っている人が増えてきているため、動画で情報を受け取る人の市場は増加する一方ではないかと思う。我が子を見ていても、絵本より動画に圧倒的に興味をもっており、人間が本能的により多くの五感に働きかけるメディアを好むのは自明のことだと私は思う。制作については外部に依頼することも可能だが、これからどんどん進化する分野であるし、ぜひ早い段階で自社(自身)で制作に取り組んでいただくのも良いのではないかと思う。

 YouTuberという人たちは、自身の動画を見てもらい広告収入を得る人たちだが、企業がYouTubeでコンテンツマーケティングをする場合は、自社を知ってもらう、商品をしってもらうなどが一般的な目的となる。関心をもった情報の受け手はチャンネル登録、いいねなどを押すことにより、発信者との距離が近づき、発信者からの次のコンテンツを優先的に目にすることになる。また、YouTube独自のリコメンド機能により、受け手が確実に興味ありそうなコンテンツや、他の利用者の履歴から類想した「ひょうっとしたらこの分野も興味があるかもしれない」というコンテンツをリコメンデーションしてくれるので、いままでリーチできていなかった受け手を増やしてくれることにも有用である。

 ただ動画というメディアなので、自社の商品紹介サイトなどのWEBコンテンツに顧客を誘導するための導線としては決してスムーズとは言えない部分もあり、せっかく視聴してくれた受け手が、続けてYouTubeにリコメンドされた他の動画に遷移してしまって、そのまま繋がりが失われることも少なくないため、動画の中で、リンクやボタンをクリックして誘導したいコンテンツに誘導することも重要となる。

弊社YouTubeチャンネル「デジタルトランスフォーメーション研究所公式」

コンテンツマーケティングのバリエーション「Udemy」

 同じ動画コンテンツでも、UdemyはYouTubeと特性が異なる。まず、YouTubeは無料で視聴できるコンテンツであるのに対して、Udemyは有料コンテンツである。YouTubeが隙間時間に楽しむ動画としての特徴が強いのに対して、Udemyはがっつり自己啓発したい人の為の学習教材である。YouTubeはコンテンツを見始めてすぐやめてしまう人が多い一方、Udemyの動画は最後まで視聴いただける率が高い。お金を払って視聴していること、学習することが目的であることから、この違いは当然のことである。そのため、Udemyの動画コンテンツを制作するためには、YouTubeより細かい手間が必要である。例えば、コンテンツを細かいチャプターに分割しアジェンダを明示し、学習者が自身の興味あるチャプターに飛んだり、繰り返し見たりしやすいように整理する。受講を決定していない学習者に対して、コンテンツの対象は誰でどんな学びが期待出来て、どの程度の難易度かなどの情報を埋め込んだ予告編をやはり動画で作成する。

 これらの手間はYouTubeより大きいものの、受講生との間のコミュニティを作り、一定の反響を得ることもできるため、より情報の発信者と受け手の距離は縮めやすい。また、自社商品紹介のリンクなどへの誘導は、YouTubeよりもスムーズに実現可能ではないかと思う。

 ただ、YouTubeにしても、Udemyにしても自社メディアではないので、情報の受け手の個人情報はあまり得られない。所属企業名もわからないことが一般的だ。情報の受け手に何かしらのアクションをしたい場合には手段が限られており、それぞれのサービスの中で与えられた範囲でしか実行できないのが事実だ。

 これらの情報の受け手の個人情報を集積し、そこに対して何かしらのアクションをとるには、別途メルマガに申し込んでいただく、あるいいは何かしらの問合せ、資料ダウンロードなどの申し込み型コンテンツに誘導するしかない。つまり次のアクションへつなげるための導線をどう確立するかは課題となる。

弊社Udemy「デジタルトランスフォーメーション研究所公式」

コンテンツマーケティングのバリエーション「オンラインスクール」

 弊社では自社オンラインスクール「DX実践道場」を運営している。Udemyとの違いは、自社ですべての運営が可能であることだ。弊社では、ThinkificというSaaSプラットフォームを利用しているが、これ以外にTeachable、Kajabiなどというプラットフォームが世界的には有名だが、国内での利用実績はまだまだ少ない。

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 DX実践道場はサブスクリプション方式であるため、入会すればいつでも好きな講座を受講できる方式をとっている。Udemyと比べると、DXを実際に仕事にされている方など、DXを学ぶことが業務上重要である方が多い他、講師や研究員への質問、メンバー間のディスカッションが可能な仕組みとなっている。また、講座の紹介ページを共有することにより、検索によりその講座の存在を知っていただき、入会を検討いただく導線とすることが可能だ。

 それなりの運営コストは生じるが、特定テーマについて徹底的に学ぶ方に集まっていただくには、独自オンラインスクールという選択肢はお薦めである。

弊社オンラインスクール「DX実践道場」

過渡期にどう対峙するか

 以上、弊社で実際に運用している媒体を中心にプル型発信にあたるコンテンツマーケティングのバリエーションを紹介させていただいた。このようにプル型発信が主流になるもも、デジタルによる産業の変革の一貫である。マーケティング分野においては、これに限らず、多くのトランスフォーメーションが進展しており、まさに過渡期の真っただ中と言える。これらのトランスフォーメーションに過渡期があるのは、市場である情報の受け手がデジタル最適化に適合するのに時間がかかることである。市場や情報の受け手がどのようにアナログからデジタルに適合していくか、そのジャーニーを学び、自社に最適なマーケティング手法を学び、施行し、改善しつづけることが重要である。

(荒瀬光宏)

DX実践道場https://dojo.dxlab.jp/

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