本コンテンツでは、DXリテラシー向上に欠かせないリスキリングの必要性と、習得すべき具体的テーマを解説します。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
企業におけるDXは、単なるIT化やデジタル化を意味しません。市場環境や顧客ニーズがデジタル技術によって劇的に変化し、従来型のビジネスモデルでは立ち行かなくなる状況に対応するため、自社のビジネスモデルや組織行動を根本から革新する取り組みです。従来モデルはアナログ前提で設計されているため、デジタル主導の市場や顧客ニーズとのギャップが広がり続ける——この現実が、DXを「必須課題」にしています。
またDXの本質は、ビジネスモデルの変革と継続的な価値創造です。加えて昨今では、「サステナビリティ(SDGs)」「人中心の働き方の実現」といった、従来の収益最優先から一歩踏み出したテーマも同時並行で達成するのが主流となっています。

企業におけるDXのイメージ(DX実践道場の講座より)
ここでいうデジタル化(IT化)とは、従来のビジネスモデルを変えずに、人手で行っていた業務の一部を「デジタルのほうが効率や品質が高い」という観点でコンピュータや機械に置き換えることを指します。この段階ではビジネスモデル自体に大きな変更はないため、本質的にはDXとは呼べません。
しかし、そもそもデジタル化が十分に進んでいない組織では、デジタル技術やデータを活用したマネジメントスキルが不足し、DX推進は非常に困難になります。したがって、デジタル化(デジタイゼーション、デジタライゼーション)はDXを実現するための前提・ステップと位置付けるのが一般的です。
リスキリングが必要な背景
現在の環境変化は「第四次産業革命」と呼ばれており、デジタル技術の進展によってリアル空間とデジタル空間がシームレスに融合しつつあります。そのため、これまでリアルな製品やサービスを提供してきた業界でも、デジタルを前提とした競争原理に対応しなければ生き残れません。
具体的には、
- データドリブン経営:リアル/デジタル双方で取得したデータを活用し、サービスや事業価値を高速で向上させる
- 顧客体験価値の向上:顧客が「このサービスを手放せない」と感じる体験を設計する
- プラットフォームビジネス(プラットフォーマー):蓄積したデータをもとに、全利用者へ新たな価値を創造・提供する
これらが産業界全体の新たな競争原理となりつつあります。さらに、業界ごとに独自の競争原理も存在するため、これらの変化を先取りし、自らを変革することが中長期的な企業価値向上には不可欠です。

第四次産業革命と競争の原理の変化(DX実践道場の講座より)
変革を阻む「慣習・常識・伝統」という障壁
これらの変革で最大の障壁となるのは、旧来の慣習・常識・伝統です。業界の古い競争原理を効率的に追求するために生まれた不文律が組織文化の核となり、「うちの会社ではXXXと決まっている」といった既成概念が根付いています。新たな競争原理を正しく理解し、これらの不文律を徹底的に問い直したうえで、変化した環境にふさわしい価値創造を継続する組織行動を再設計することが、生き残りのカギです。
世界とのギャップと日本企業の課題
日本企業では高齢化社会の進展もあって、市場や顧客ニーズがアナログ的なまま変化しにくい傾向があります。しかし、世界市場ではデジタル前提の競争原理を満たす企業が勝者となっています。この差は世界時価総額ランキングやIMD世界デジタル競争力ランキングにも明確に表れており、デジタル環境を先取りして自社を変革する必要性を如実に示しています。


プログラミング以上に必要な組織のビジネススキル
学校教育などでプログラミング学習が推進されていますが、DX推進の観点からは以下のようなスキルを組織全体で身につけることがより重要です。
- デジタル技術が変える環境・競争原理の把握
市場や業界で何がどう変わっているのかを的確に理解する - 新たな競争原理に基づくビジネスモデル・戦略の構想
自社が勝ち残るために必要なモデルや戦略を自ら描ける - ビジョンを実現するリーダーシップ
構想した「あるべき姿」を組織変革へとつなげる統率力を発揮する - 人の新役割設計とAI・機械との協働実践
役割分担を再定義し、人とテクノロジーが共創できる仕組みを作る

人材サブカテゴリーとビジネスの俊敏性、規制枠組みが特に課題(DX実践道場の講座より)
ある調査によると、日本のデジタル競争力が低迷する大きな要因の一つに「人材問題」があり、背景には国民のデジタルスキルの低さが浮き彫りになっています。とりわけ高齢化が進む日本では、これらの指標が押し下げられ、社会全体のデジタル競争力に深刻な影響を与えています。
そのため、従来の常識を見直し、先に挙げた新たなビジネススキルを“学び直す”リスキリングが急務です。実際、日本政府も産業競争力強化を目的に、リスキリングへ1兆円を投じるなど、国を挙げた支援を進めています。
必要なスキルとは
では、具体的にどんなスキルを身につけるべきでしょうか。経済産業省は2022年12月に、企業が組織的にリスキリングを進めるための指針として「デジタルスキル標準」を発表しています。
この「デジタルスキル標準」は大きく二つに分かれます。
- DXリテラシー標準
ビジネスパーソン全体がDXに必要な基礎知識やマインドセットを身につけるための指針。弊社ではこれを「ビジネススキル」と呼んでいます。 - DX推進スキル標準
企業内でDXを推進する専門人材(デジタル人材)の育成・採用を目的とした指針。弊社ではこれを「デジタルスキル」と呼びます。
さらに、DXリテラシー標準のうち、IT技術そのものではなく環境適応や思考法などに関わる要素は「アナログスキル」と定義して区別しています。これらを組織的にバランスよく学ぶことが、真のDX推進には欠かせません。

DX推進には、デジタルスキルとアナログスキルの両方が欠かせません。
- デジタルスキル:デジタル戦略の立案やシステム・仕組みの構築を担う技術的・専門的能力
- アナログスキル:変化する環境のなかで、顧客や組織のメンバーの心理を深く理解し、自社の価値提供や組織行動を正しい方向へ導く力
この二つが相互に補完し合うことで、真に柔軟かつ持続的なDXが実現します。

DXで必要なビジネススキル(DX実践道場の講座より)
DXに求められるアナログスキルは、従来の経験で培われたものとは大きく性質が異なります。しかし多くの組織は「アナログスキルは既に備わっている」「足りないのはデジタルスキルだ」と誤解し、後者ばかりに注力しがちです。これからのビジネススキルは、右脳的なアナログスキルと左脳的なデジタルスキルが一体となって初めて機能します。組織全体で両者をバランスよく習得することが、真のDX推進には不可欠です。

右脳にあたるアナログスキルのリスキリングも必要(DX実践道場の講座より)
どのような手段でスキルを学ぶべきか
これらのスキルには、全社員が共通で身につけるべきものと、部門や役割ごとに習得が求められるものがあります。
そのため、組織全体でリスキリングに取り組む際には、eラーニングやオンライン講座を活用し、社員が好きなタイミングで、好きな場所・時間に学べる環境を整備することが効果的です。

各部門が必要なスキル例(DX実践道場の講座より)
ただし、部門ごとに求められる専門スキルを正しく身につけるには、そのスキルが必要とされる背景やDX全体像の理解が不可欠です。まずは「DXとは何か」「環境変化の本質」「データドリブンの意義」といった基礎を順序立てて学ぶことで、学習効率は格段に向上します。さらに、各自の業務に応じて専門性を深められる、体系的な学習機会を用意することも必要です。

DX実践道場が提供するオンライン講座のカリキュラム例
新しいビジネススキルを身につけるには、グループワーク中心の集合研修が不可欠です。例えば:
- 経営陣研修
役員が集い、危機感を共有しながら自社のDXビジョンを構想 - 幹部向け戦略立案研修
DX戦略の策定プロセスを実務を通じて体感 - 管理職DX研修
新しい組織行動の評価基準を具体化 - デジタルサービス立案研修
顧客理解を深め、新サービスの企画を実践
これらの研修では、単に表面的な合意にとどまらず、策定プロセスに深く関与しながら具体的に思考することで、組織全体の行動変容に一貫性をもたらします。
また、「オンライン講座よりも書籍で学びたい」という方には、指定図書として『1冊目に読みたいDXの教科書』を活用いただくと、推進中の疑問解消に役立ちます。

リスキリングのための集合研修、書籍、オンライン講座
集合研修、書籍、オンライン講座など複数チャネルを組み合わせると、各社が提供するコンテンツにより同一組織内でDXの理解や用語定義がばらつくリスクがあります。こうした混乱を防ぐには、すべてのチャネルで同一の体系に基づくカリキュラムを提供するサービスを導入することが不可欠です。
デジタルトランスフォーメーション研究所のDXリスキリング支援サービス
以下のチャネルをワンストップでご提供し、組織全体のDX推進を強力にサポートします。
1. DX関連集合研修
対象・内容
- 経営層:経営者DX研修(危機感共有とビジョン構想)
- 幹部層:DX戦略立案研修(実践型ワークショップ)
- 管理職:管理者DX研修(新組織行動の評価設計)
- 現場:デジタルサービス立案研修(顧客理解→企画演習)
特徴
- 参加者・組織課題に応じたカスタマイズ実施
- フレームワーク提供+アウトプット創出の伴走支援
2. DX書籍+ナレッジ診断
書籍
- 『1冊目に読みたいDXの教科書』(SBクリエイティブ, 2022年10月)
- 専門用語を排除し、豊富な図解でDXの本質を平易に解説
- 国内外の事例を横断的に網羅
診断サービス
- 書籍理解度を測る「DXナレッジ診断」
- 組織全体の受講結果を集計・レポート化
3. DXオンライン講座「DX実践道場」
- サービス概要:
散在しがちなDX知見を一つの体系に再構築
サブスクリプション型で継続的にスキル習得 - 受講形態
個人受講:いつでも申し込み可能
組織契約:一括導入で受講進捗・理解度データを提供
これら3つを同一カリキュラムで連携させることで、用語や思考フレームのバラつきを防ぎ、貴社のDXリスキリングを効率的かつ効果的に推進します。
執筆者:デジタルトランスフォーメーション研究所 代表取締役 DXエバンジェリスト 荒瀬光宏|荒瀬光宏 プロフィール
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