デジタルリテラシー教育の欠如が招くリスクとは?スシロー炎上事件から学ぶDX時代の必須スキル

昨今、SNSでの不適切投稿による炎上事件が企業活動にも大きな影響を与えています。本記事では、スシローで発生した事件を「デジタルリテラシー教育の欠如」という観点から分析します。

DX推進が叫ばれる中、なぜデジタルリテラシー教育が企業にとっても重要なのか。東洋大学の坂村健氏が提唱する「デジタル教育の3分野」を参考に、企業やビジネスパーソンが学ぶべき社会的責任について考察します。

デジタルリテラシー教育とは?坂村健氏が提唱する「3つの分野」

「デジタルリテラシー 教育」と一口に言っても、その範囲は多岐にわたります。東洋大学情報連携学部長の坂村健氏は、「デジタル教育」を以下の3分野に整理しています。(Wikipedia:坂村健氏

  • CS(コンピュータサイエンス):アルゴリズムやプログラミング、ネットワークの仕組みなど、技術の「基盤」を学ぶ分野。問題解決力を養います。
  • IT(インフォメーションテクノロジー):Web検索やビジネスツール(Excel, PowerPoint, SaaSなど)の「実践的スキル」を学ぶ分野。業務効率に直結します。
  • DL(デジタルリテラシー):SNS投稿のマナー、誹謗中傷防止、デマ識別、個人情報保護、AI倫理など、情報社会で「適切に判断・行動する能力」を学ぶ分野。

DX推進においては、CSとIT(ツールの活用)が注目されがちですが、これらを適切に使うための土台となるのがDL(デジタルリテラシー)です。このDL教育の欠如が、時に深刻な事態を引き起こします。

デジタルリテラシー教育の欠如が招くリスク(スシロー炎上事件の事例)

事例:スシローSNS炎上事件の経緯

2023年1月、岐阜県内のスシロー店舗で、高校生が醤油ボトルや湯呑みを舐める様子を撮影した動画がSNSに投稿され、瞬く間に拡散しました。批判が殺到し、運営会社のあきんどスシローは謝罪とキャンペーン中止を発表。最終的に約6700万円の損害賠償を求める訴訟を提起する事態となりました。

参考:東洋経済オンライン記事

社会的反響と企業への影響

この事件は、単なる「若者の悪ふざけ」では済まされませんでした。報道を受けて親会社の株価は一時的に大きく下落し、企業は深刻なブランド毀損と経済的損失を被りました。専門家からは、投稿者の想像力(=DL)の欠如が根本原因であるとの指摘がなされています。

なぜ炎上は起きたのか? デジタル空間特有のリスク認知

スシローの事件では、若年層がツール操作(IT)に長ける一方で、投稿の社会的影響や法的責任(DL)を認識しづらいという「リスク認知のギャップ」が浮き彫りになりました。

これは若年層に限りません。ビジネスシーンにおいても、例えば「操作に不慣れなため、誤って非公開情報を公開してしまう(ITスキルの不足)」「ツールの便利さ(IT)は知っていても、情報セキュリティ(DL)の意識が低い」「ウケ狙いの投稿が、自社の信用を失墜させる」といった、世代や立場に応じた様々なリスクが存在し、これが炎上や情報漏洩を誘発します。

リアル空間での公共マナーは経験から学べますが、デジタル空間では行動規範が曖昧になりがちです。匿名性や拡散スピードといった特性を理解しないまま行動することが、個人のみならず所属する組織の社会的信用をも失墜させるリスクを高めます。

企業・個人に求められるデジタルリテラシー教育の方向性

では、こうしたリスクを防ぐために、どのような教育が必要でしょうか。個人レベルでは、坂村氏の提唱する3分野(CS・IT・DL)を統合した学習機会が必要です。

特に企業においては、単にツール(IT)の使い方を教えるだけでなく、具体的な炎上事例や情報漏洩事故を分析するワークショップ(DL)の実施が有効です。また、SNS投稿ガイドラインの策定や、情報セキュリティに関する定期的な研修、社内でのデジタル活用に関する対話の場を設けることが推奨されます。

また、近年では生成AIの急速な普及に伴い、AIを正しく理解し、適切に活用するための「AIリテラシー」も、デジタルリテラシー教育の重要な柱となっています。

▼AIリテラシーの学習については、こちらの記事も参考にしてください。
DX推進担当者のためのAIリテラシー入門&資格ガイド

まとめ:DX時代における「学ぶ責任」

スシローのSNS炎上は、個人のデジタルリテラシー(DL)不足が招いた典型例です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する上で、CS(技術基盤)とIT(ツール活用)のスキルは不可欠ですが、それらをDL(デジタルリテラシー)の視点で「誰に」「何を」「どのように」発信・利用するかに結びつけなければ、重大なリスクを招きます。

今後は、学校や家庭だけでなく、企業や組織においてもこれら三分野をバランスよく学ぶ機会を整備することが急務です。DXの基礎知識習得とともに、デジタルリテラシー教育を実践し、個人一人ひとりがデジタル社会の健全性を支える担い手となることが求められます。

▼DXの基礎知識を学びたい方はこちら
DXとは?その定義から推進プロセスまでを徹底解説

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荒瀬光宏

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
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