昨今、DXというキーワードの流行に伴い、「デジタル人材」という言葉をよく目にします。「デジタル人材の必要性が高まっている」「デジタル人材が不足している」といった表現です。私自身も違和感なく使っています。では、「デジタル人材」とは一体どのような意味を持つ言葉なのでしょうか。
「デジタル人材」の使われ方
では、どのような場面で「デジタル人材」という言葉が使われているのでしょうか。従来からある「IT人材」とは意味が異なるのでしょうか。まず、「IT人材」という言葉は、従来からITを用いてシステム設計、開発、運用などに従事してきた技術者を指します。しかし、「デジタル」という言葉は「IT」という言葉よりも、顧客(ユーザー)に提供する価値を向上させるためにIT技術を活用するという要素を含んでいます。
そのため、「デジタル人材」という言葉は、デジタル技術(IT技術)を用いてビジネスモデルの変革や価値創造戦略を策定し、実行できるようなビジネス寄りの役割を果たす人材を指す場合が多いです。また、IT部門ではなく、デジタルを活用して価値を向上させたい業務部門で必要とされる人材として用いられることが多いです。
「デジタル人材」のスキル
では、「デジタル人材」とはどのようなスキルを持っているのでしょうか。上記の役割を考えると、一般的に必要とされるスキルは、以下の8項目に集約できると考えられます。
ビジネス系スキル
- 顧客価値創造力
- ビジネスデザイン力
- コミュニケーション能力
- 要件定義スキル
IT系スキル
このほか、目的に応じて経営知識、戦略立案力、業務知識、プログラミングスキルなどが求められる場合もありますが、多くの場合は必要に応じて分業が想定されるため、デジタル人材の必須条件としては上記の8項目で十分といえるでしょう。
「デジタル人材」の人材像
では、実際の「デジタル人材像」はどのように理解されているのでしょうか。周囲の方々にお伺いしたところ、冗談半分の回答も含めて以下のようなお声をいただきました。
- エクセルを使いこなせる方
- 課題を論理的に捉え、情報処理アプリケーションで解決策を提案できる方。開発力は分業でも構いませんが、開発の完了まで管理できることが求められます。
- 二進数や16進数で物事を考えられる方
- 「デジタル人材」という言葉を使うよりも、どのような人材が必要かを明確に定義すべきというご意見
- そろばんを使いこなせる方(実はそろばんもデジタルであるという指摘)
- ビジネス成長のためにデジタルテクノロジーを利活用し、既存の価値観を忘却してイノベーションを生み出せる方
- “デジタルテクノロジー×ビジネス×企業風土・文化”を掛け合わせたスキルを持つ方
- レガシー産業出身で、データやシステム(テクノロジー)を活用する業務に強い方。Webサービス企業では「デジタル人材」という抽象的な言葉は用いず、データサイエンティストやデータエンジニア、機械学習エンジニアなど具体的な職種名で呼ぶとのご指摘
- インプットとアウトプットを簡略化(あるいは抽象化)できる方
このように立場や背景によって受け止め方が大きく異なります。したがって、人材募集で「デジタル人材」という曖昧な表現を用いる場合には、
1. どのようなデジタル戦略を実現したいのか
2. どのような体制や役割分担を予定しているのか
を明確にしたうえで、「このポジションにはデータエンジニアが必要です」といった形で、具体的なロールやスキルを定義する必要があります。
また、株主総会など公の場では「デジタル人材を増やす」という表現でも問題ありませんが、採用の場面では具体的に何を行い、どのような経験やスキルを有する人材を募集するのかをしっかり定義しなければ、適切な募集は困難です。組織内で理解がバラバラなままプロジェクトが進行すると、成果が出ないだけでなく、「なぜうまくいかなかったのか」という生産性のない責任論に陥るおそれがあります。
結論として、「デジタル人材」という一義的な定義は存在しません。社内でこの言葉が出た際には、遠慮せずに「ここで言うデジタル人材とは、どのような目的で何を行い、どのような経験やスキルを持つ人材なのか」を質問してください。もし具体像が明確でない場合は、具体化のためのディスカッションを行いましょう。この議論を避けると、後に生産性のない責任論に発展しかねません。
「デジタル人材」の見分け方
とはいえ、「デジタル人材」と称している人が本当にデジタル人材なのかを見分けたいというニーズは多いです。これについては、目的に応じた具体的な定義がなければ議論しても意味がありませんが、周囲から興味深いアイデアを多数いただきましたので、ご紹介させていただきます。
- FAXを使っているかどうか(ただし、相手がいる業務なので、デジタル人材でもFAXを使う場合があるそうです)
- メール誤送信の際に、アドレス400件をBCCではなくCCに記載するかどうか
- スマートウォッチを着用しているかどうか
- PCやスマートデバイスを使いこなせるかどうか
- カタカナ単語を多用するかどうか
- iPhoneを見せたときに瞬時に名称を答え、“アイフォン”“スマホ”“携帯”など、答えた単語によって区別する(その機器を何だと捉えているかがポイントになりそうです)
- 「デジタル人材」の定義を聞かれて、詰まらずに自分の言葉で説明できるかどうか
回答を寄せてくださった皆さま、愉快なご意見をありがとうございました。もしテストを行うとすれば、iPhoneなどさまざまな機器をフラッシュカードのように見せ、名称を次々と言ってもらい、その回答で判定する手法などが考えられます。たとえば「携帯」と答えたらアナログ人材寄りに評価が傾くような仕組みです。もっとも、これはデジタルネイティブかどうかを判定しているにすぎませんが。
デジタル人材の定義
以上の文脈を踏まえた上で、デジタル人材の定義を以下に記載します。
ビジネス系スキルとIT系スキルを持ち合わせ、デジタル技術を活用したビジネスモデルの変革や価値創造戦略を策定し実行する人材
執筆者:デジタルトランスフォーメーション研究所 代表取締役 DXエバンジェリスト 荒瀬光宏|荒瀬光宏 プロフィール
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