40代「関わりたくない」4割
2022年1月18日付の日経電子版記事を以下よりご参照ください。
DX遅れは中堅社員のせい? 40代「関わりたくない」4割(2022年1月18日 日経電子版)
一見、タイトルだけを見ると日本の中堅社員が問題視されているように思えますが、本文を読み進めるとこう記されています。
「日本は合意形成に時間をかけ、スピードが遅い。経験豊かな中堅社員は仕事のやり方を変えるのが簡単ではないことを熟知しているからこそ、後ろ向きな声が多い」
確かに、以前に経営改革や業務再構築を目指したプロジェクトが頓挫していく光景を目の当たりにした経験から、「最初に動いた人が損をするのではないか」という疑念を抱くのは自然です。また、限られた時間の中で新たな取り組みに割く余力は大きく、人を先頭に立てても成果が見えにくいのではないかという率直な懸念も理解できます。
中間管理職、中堅社員のDXにおける役割
では、DXにおける中間管理職・中堅社員の役割とはどのようなものでしょうか。企業のDXとは、組織がデジタルを活用して価値提供の仕組みを変えることを指します。つまり、価値提供の仕組みを支えるデジタルサービスのみならず、実際の業務を運用する組織の行動も変える必要があります。従来の仕事の進め方と大きく異なるため、従来のマネジメントのままでは組織の行動変容を図ることはできません。
マネジメントとは、従来の組織行動を維持するために組織に課したルールであり、プロセスであり、マインドセットです。マネージャーはこれらを逸脱しないように組織を管理します。このままでは、DXが求める変革を実現することはできません。DXにおいては、変わるべき方向をビジョンとして示し、自ら実践するリーダーシップが必要なのです。
中間管理職・中堅社員が実践すべき役割
中間管理職・中堅社員が実践すべき役割は以下の通りです。
- 全社の変革ビジョンを徹底的に理解し、不明点は経営層に確認する。
- 自部署に置き換えた場合、何を意味するのかを自分の言葉で整理する。
- 関係ステークホルダーに理解が正しいかを確認する。
- 自部署での変革内容や他部署との関わり方を部署内に伝える。
- 部署内の理解を一致させるため、具体的な取り組みについて話し合う。
- 自ら先頭に立って変革に取り組み、部署内の機運を高める。
- 部署内の行動変容を促す新たなマネジメント方法を考え、実践する。
- 必要な仕組み変更を管理部門と調整し、組織にフィードバックする。
- 変革に伴う課題を能動的に取り上げ、解決策を模索する。
- 社内の変革事例を収集し、部署内にフィードバックして機運を高める。
以上を見ると、組織変革において中間管理職・中堅社員が担う役割は非常に重要です。これらのマネジメント層がDX推進活動を行わなければ、企業のDXは実体のないものになってしまうでしょう。
しかし、実際にこれだけ動けている中間層はどれほどいるでしょうか。中間層が本気で取り組んでいないDXに、現場社員がついてこないのは当然です。まして現場社員が顧客への新しい価値提供方法を発案した際、従来型のマネジメント枠組みで中間層が対応すると、「仕事が増えるだけだから、本来の業務を優先しろ」や「良いアイデアだが、その新規サービスを開発してくれる他部署が動かないと実現しない」などの反応になってしまうのが実情でしょう。
中間管理職、中堅社員の行動変容は経営陣の仕事
なぜ中間管理職や中堅社員がそのような組織行動を取るのか。それは、そう設計された組織だからです。従来のビジネスモデルを大きく変える必要がなかった時代には、組織の役割を明確に定義し、業務プロセスを策定し、やるべきこととやってはいけないことを決め、それに基づく目標管理やガバナンスのルール化を行い、中間管理職には現場を「逸脱させないよう」管理するよう指示していました。
その観点から、本記事では、あまねキャリア(浜松市)のCEOである沢渡あまね氏の「経営層は人事評価制度を改革する必要がある」というコメントが紹介されています。人事評価制度を見直すことは、行動変容には重要な要素です。
新しい価値提供の仕組みやビジネスモデルを模索するには、組織全体の行動変容が必要であり、そのためには社内のさまざまな要素を変える必要があります。したがって、中間管理職の行動変容を促す仕組みを構築するのは経営陣の責任です。
もし経営者が「当社の中間管理職は保守的で新しいことに取り組まない」「課長連中からはイノベーションのアイデアが全く出ない」と批評するだけであれば、それは職務怠慢と言わざるを得ません。組織の行動変容を支えるリーダーシップを発揮できるのは、経営陣以外にいないのです。
執筆者:デジタルトランスフォーメーション研究所 代表取締役 DXエバンジェリスト 荒瀬光宏|荒瀬光宏 プロフィール
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