リーンキャンバスとは?9ブロックの意味と書き方・順番【DX企画・新規事業に活かす】2025年版

DX企画や新規事業の初期段階では、「議論が抽象に流れる」「分厚い資料を作っても検証が進まない」「顧客の課題と価値がぼやける」といった行き詰まりが起きがちです。こうした“もやもや”をリセットし、チームで同じ景色を見ながら前へ進むための道具がリーンキャンバスです。
本稿では、定義と設計思想、ビジネスモデルキャンバス(BMC)との違い9つの項目の意味と書き方記載順の考え方まで、DX現場での実務に沿って解説します。

リーンキャンバスとは?

リーンキャンバス(Lean Canvas)は、起業家 Ash Maurya によって考案された1ページのビジネスモデリングツールです。

リーンキャンバスの図(リーンキャンバスとは?9ブロックの意味と書き方・順番【DX企画・新規事業に活かす】)

リーンキャンバス(Lean Canvas)

事業アイデアを9つの要素(顧客・課題・価値・解決策・指標・チャネル・収益・コスト・優位性)に分解し、前提(仮説)とリスクを可視化して、短い学習サイクルで更新することを目的に設計されています。BMCを起点に、より顧客課題中心に最適化された点が特徴です。

設計思想(Principles)

  • 1ページ制約:冗長さを排し、焦点を合わせた対話と意思決定を促す。
  • 顧客課題中心:課題・既存代替・価値提案を起点に仮説を立て、解決策は必要最小で表現。
  • 検証可能性Key Metrics(行動指標)で学習の進捗を可視化。
  • 反復更新:静的な計画書ではなく、検証に合わせて更新する“学習の場”。

何のために使うか(Outcomes)

  • チームで前提共有と論点整理を最短で行い、手戻りを抑える。
  • 次に取るべき検証アクション(顧客インタビュー、プロトタイプ、価格検証など)を決める。
  • 意思決定の根拠を可視化し、ピボット/継続を判断しやすくする。

適用範囲/向かない場面

  • 適する場面:Problem/Solution Fit 〜 PMF前の探索段階、既存事業の新セグメント・新提供価値の検証
  • 向かない場面:前提がほぼ確定した大型投資の詳細計画や、静的な「完成」文書としての運用

よくある誤解の回避

  • 誤解:リーンキャンバス=事業計画書 → 実際:学習と検証を促す最小の共通図
  • 誤解:埋める順番は決まっている → 実際:唯一解はなく、最もリスキーな仮説から検討

 

ビジネスモデルキャンバス(BMC)との違い

BMC(はビジネスモデル全体の設計に適し、リーンキャンバスは不確実性の高い初期探索に焦点を当てます。レイアウトは似ていますが、次の置き換えが行われています。

リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバス(BMC)の比較

リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバス(BMC)の比較

  • Problem(顧客の課題)/Solution(ソリューション)/Key Metrics(主要指標) ←(BMCの)Key Partners(パートナー)/Key Activities(主な活動)/Key Resources(主なリソース)
  • Unfair Advantage(優位性) ←(BMCの)Customer Relationships(顧客との関係)

ねらいは、顧客の課題・価値の検証に資源を集中し、必要に応じてピボット/前進を迅速に判断できるようにすることです。

 

リーンキャンバスの9つの項目と書き方

1. 顧客セグメント(Customer Segments)

価値を届ける相手。意思決定者・利用者・影響者(DMU)を分け、最初に狙うセグメント(アーリーアダプター)を明示します。

書き方のポイント

  • 属性(役割・業界・規模・現場の文脈)と状況(利用シーン・制約)を具体化。
  • 「誰の予算から支払われるか」を併記(B2Bでは特に重要)。

2. 課題(Problem)※既存代替を含む

顧客が直面する上位1〜3の課題を簡潔に。あわせて既存の代替手段(競合・自前運用・無対策)を列挙し、現在の選好理由と不満を押さえます。

書き方のポイント

  • 課題は「頻度×痛み×支払い意思」で優先度付け。
  • 事実と仮説をラベリング(Fact/Assumption)。

3. 独自の価値提案(Unique Value Proposition)

「なぜ選ばれるのか」を一行のヘッドライン+補足で表現。顧客のジョブ/成果に直結する差別化便益を中心に据えます(必要に応じてValue Proposition Canvasで精緻化)。

4. 解決策(Solution)

価値提案を実現する最小実行セット(MVP像)を明記。使い勝手や運用条件にも触れ、検証可能な粒度に分解します。

5. チャネル(Channels)

発見→獲得→有効化→継続の各フェーズで、オンライン/オフラインの到達経路を整理。顧客ジャーニーと整合させ、初期は重点チャネルに集中します。

6. 収益の流れ(Revenue Streams)

誰が・いつ・何に対して支払うか。価格モデル(サブスク/従量/成果報酬/ライセンス等)、課金トリガー、初期の試算(ARPU/ARPA)をメモ。

7. コスト構造(Cost Structure)

固定費・変動費・CAC(顧客獲得コスト)など主要コストドライバーを特定。MVP〜初期展開の必要最小コストを見積もります。

8. 主要指標(Key Metrics)

成功を測る行動指標を定義。例:AARRRのどこを最優先するか、ノーススター指標(例:有効アクティブチーム数)など。

9. 圧倒的な優位性(Unfair Advantage)

模倣されにくい源泉(専有データ、ドメイン知、ネットワーク効果、コミュニティ、切替コスト、ブランド等)。検証を通じて具体化していきます。

 

記載する順番(実務ガイド)

リーンキャンバスの記載順に絶対解はありません。チームの状況に応じて、最もリスキーな仮説(多くは「顧客・課題・価値」)から検討し、更新を重ねます。DXの現場では、次の流れが扱いやすい定番です。

  1. 顧客セグメント
  2. 課題(既存代替を含む)
  3. 独自の価値提案
  4. 解決策(MVP像)
  5. チャネル
  6. 収益の流れ
  7. コスト構造
  8. 主要指標
  9. 圧倒的な優位性

なお、当研究所のDX推進リーダー研修【実テーマで価値創造型DX企画を役員提案】では、顧客課題仮説 → カスタマージャーニー → 価値提案(VPC) → リーンキャンバスの順でワークを設計しています。

 

まとめ

リーンキャンバスは、DX企画や新規事業の初期段階で仮説とリスクを一枚に凝縮するための道具です。BMCとの役割分担を理解し、顧客・課題・価値から着手して、検証サイクルに素早く接続しましょう。
ほかのDX向けフレームワークも体系的に学びたい場合は、DX戦略・DXフレームワーク解説ガイド【2025年版】もご覧ください。

 

参考文献・出典

  1. LEANFoundry. “Lean Canvas.”(閲覧:2025年8月)
  2. Ash Maurya. “What is the Right Fill Order for a Lean Canvas?”(2019年1月10日/閲覧:2025年8月)
  3. Ash Maurya. “Running Lean(3rd ed.).”(2022年3月)
  4. Strategyzer. “The Business Model Canvas – Download the Official Template.”(閲覧:2025年8月)
  5. Alexander Osterwalder, Yves Pigneur. “Business Model Generation.”(2010年)
  6. LEANSTACK. “Start With Mindset.”(閲覧:2025年8月)
  7. Ash Maurya. “It’s Time to Fire the Business Plan for Good.”(2016年3月25日/閲覧:2025年8月)

 

荒瀬光宏

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
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