デジタル化はDXではない
社会や産業のデジタル変革は、企業にとってビジネスモデルをデジタル環境前提へ移行しなければ生き残れない時代をもたらしています。だからこそ私は、
データ/デジタルテクノロジーを活用し、顧客提供価値を高め続ける仕組みの構築
が不可欠だと繰り返し訴えてきました。言い換えれば、データがサービスや事業を通じて血流のように循環し、そのデータを使って超高速PDCAを回せるように、従来の価値提供の枠組みそのものを根本から変える必要があるということです。これは、企業の事業やビジネスモデルだけでなく風土・文化にまで及ぶ一大プロジェクトであり、経営者自らが推進すべき責務です。
しかし、昨今のDXブームの中で、多くの経営者や管理職は「デジタル化」をDXと呼んでいます。確かにデジタル化は重要ですが、それは従来のビジネスプロセスの一部をデジタルツールで置き換えるに過ぎず、提供価値や価値提供の仕組み自体を変えるものではありません。それにもかかわらず、多くの組織ではDX担当者やチームに丸投げし、経営者は「DXで何を実現したいのか?」と問われると「それを考えるのも君たちの仕事だ」と受け流しているのではないかと推察されます。
「DXごっこ」をやっていませんか?

「DXごっこ」やっていませんか?
結果的にDXチームは、既存のビジネスプロセスの一部をデジタル化することに走ります。採用されたベンダーはそれを「DXの素晴らしい事例」として持ち上げ、各種セミナーへの登壇を依頼。クライアント企業の役員はちやほやされながらイベントに出席し、自社はDXを成し遂げた気になってしまう。しかし、実際には企業の価値提供の仕組みは何ひとつ変わっていません。その役員は「DXの成功」を社長に報告し、社長は報告だけを受けて「DXが進んだ」とほくそ笑む――まさに裸の王様状態です。部分的なデジタル化では投資対効果を得にくいにもかかわらず、流行の「DX」を実行したという中途半端な満足感だけが残るのです。
勢いに乗ったITベンダーは「DX」を冠したセミナーやプロモーションを展開し、DXに取り組み始めた企業が次々と飛びつきます。こうして多くの企業がデジタル化をDXと呼び、IT化やデジタル化を今風のバズワードとして解釈し、まさに「DXごっこ」に陥っているのです。
DXのビジョンを策定せよ

何をしたいか伝わっていますか?
DXは「Transformation」、つまり痛みを伴う変革です。そのため、組織文化やガバナンス、マネジメントなど多岐にわたる領域に踏み込み、価値提供の仕組みを根本から見直す必要があります。これを成功させるには、経営者が自ら旗を振り、なぜDXを推進するのか、その目的を明確に示すことが何よりも重要です。
多くの企業では、DXプロジェクトを立ち上げながらも「DXで何を実現するのか」というビジョンの明確化が後回しになりがちです。ビジョンを示さないままでは、関係者が思い思いに動いてしまい、結果的に局所的なデジタル化に留まってしまいます。
あらゆる産業が第四次産業革命とディスラプションの波にさらされる中、経営者は自社のあるべき姿を描き、その実現に向けて事業・戦略・組織・マネジメント・ガバナンス・人材を変革する方向性を示さなければなりません。想定外の事態が頻発するため、従来の枠にとらわれず、失敗を学びに変える超高速PDCAを回せる組織体制への転換も不可欠です。
ビジョン策定や戦略立案にあたっては、業界内の視点だけでは気づけない視野の広がりが求められます。必要に応じて外部の専門知見も積極的に活用し、自社に最適なDXビジョンを確立してください。
執筆者:デジタルトランスフォーメーション研究所 代表取締役 DXエバンジェリスト 荒瀬光宏|荒瀬光宏 プロフィール
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