鳥の目・虫の目・魚の目|DXで役立つ3つのビジネス視点

ビジネスの成果は「視点の組み合わせ」で決まります。単一の視点ではなく、多角的な視点を持つために役立つのが「鳥の目・虫の目・魚の目」です。
鳥の目は全体を俯瞰して絶対的な位置を捉える視点、虫の目は現場の細部から改善点を見つける視点、魚の目は時流・潮目を読み変化に乗る視点です。

本記事では、鳥の目・虫の目・魚の目をビジネスとDXの観点からどう使い分けるかを解説します。俯瞰×ミクロ×潮目の3つの視点を揃えることで、戦略策定から意思決定、日々の改善まで一貫性が生まれます。

鳥の目・魚の目・虫の目とは

鳥の目・魚の目・虫の目とは
鳥の目・魚の目・虫の目とは

3つの目はそれぞれ、空間の広さ(マクロかミクロか)や時間軸(静的か動的か)において異なる役割を持っています。DX推進において、これらを整理すると以下のようになります。

視点 英語表現 特徴・役割 DXでの活用イメージ
虫の目 Insect’s eye ミクロ・細部
現場の実態を近づいて見る
UI/UX改善、業務フローの無駄発見
鳥の目 Bird’s eye マクロ・俯瞰
全体像と位置関係を見る
ビジネスモデル変革、全体最適化
魚の目 Fish’s eye トレンド・流れ
時間変化と潮目を読む
市場変化の予測、参入タイミングの決定

虫の目:現場の「解像度」を高める力

虫の目とは、現場の細部に密着し、複眼で事象を解像度高く捉えるミクロな視点です。

ビジネスにおいて、この視点は「実行力」と「質」を担保します。顧客の声(VOC)の一つひとつ、製品のわずかな不具合、業務フローの小さな無駄。これらに気づき、着実に改善を積み重ねることで、組織は筋肉質になり、顧客満足度は向上します。足元が盤石であってこそ、戦略は実行されます。

しかし、この「虫の目」だけに没頭すると、組織は近視眼的になります。
かつてのように環境が不変であれば、目の前の改善の積み上げだけで勝てました。しかし現在は変化の時代です。

例えば、ボートを漕いでいるとき、虫の目で「漕ぎ方のフォーム」だけを改善してスピードを上げても、海流(マクロな動き)に乗って間違った方向に進んでいれば、ゴールにはたどり着けません。部分最適が全体最適にならない典型例です。

鳥の目:全体の「位置関係」を把握する力

鳥の目とは、鳥のように空から地上を見下ろすように、全体像と自社の位置を把握するマクロな視点です。

経営やマネジメントにおいて不可欠なのは、この「俯瞰力」です。自社は業界の中でどの位置にいるのか、リソース配分は全体最適になっているか。森全体を見ることで、迷路のようなビジネス環境の中でも、進むべきルート(戦略)を描くことができます。

ただし、高いところから見るだけでは不十分です。「基準(物差し)」がなければ、見ている景色は何の意味も持ちません。自分が地上で静止していても、宇宙から見れば地球とともに高速で移動しているのと同じです。

株価のような短期的な指標だけに惑わされず、確固たる「ビジョン」や明確な「数値目標」という物差しを持って初めて、鳥の目は機能します。自社の現在地を正しく計測することが重要です。

魚の目:変化の「予兆」を捉える力

魚の目とは、潮の流れ(トレンド)を感じ取り、動的に変化を読み解く視点です。

ビジネスにおける最大のチャンスとリスクは「変化」の中にあります。魚が海流に乗って移動するように、市場のトレンド、技術の進化、法規制の変更といった「世の中の流れ」をいち早く察知できれば、競合より早く有利なポジションを取ることができます。

現状を「静止画」で分析するだけでは不十分です。世界は常に動いています。
「今どんな流れが来ていて、次はどうなるか」を「動画」として捉え続けること。特に変化の早いDX戦略においては、この視点が競争優位を左右します。

鳥の目・虫の目・魚の目:それぞれの視点を併せ持つ

デジタルトランスフォーメーション推進には、一つの視点で足りるわけではありません。鳥の目・虫の目・魚の目、それぞれの視点で、定期的に各視点から自社のポジションを見直し、近視眼的になっていないか確認することが不可欠です。

長年同一ビジネスモデルを続けてきた企業こそ、従来のやり方を顧み、新たな価値提供の仕組みを検討し、あるべき姿を多様な視点で再定義することが求められます。

「鳥の目・魚の目・虫の目」をさらに知る

本記事はDXの現場での使い分けに焦点を当てています。用語の背景や一般的な説明を確認したい方は、次の解説が参考になります。

  • 伊藤元重『経済を見る3つの目』(日経文庫)経済を理解するための3つの視点として、「鳥の目」(マクロの目)、「虫の目」(ミクロの目)、「魚の目」(潮目を読む目)を紹介。
  • 慶應義塾 塾長式辞(2022年4月4日):慶應義塾長 伊藤公平氏が教育の文脈で「虫の目・鳥の目・魚の目」の意義に触れたスピーチ。主旨を抜粋して引用します。

    さて、皆さんは「虫の目、鳥の目、魚の目」という3つの目の使い方を聞いたことはありますか?この3つの目を、私は経済学者の伊藤元重氏の著書「経済を見る3つの目」で知ったのですが、今日の式辞では、これから慶應義塾大学大学院で研究や専門職に関する学びを始める皆さんのために、この3つの目を私なりにアレンジしてお話しします。

    1つ目の「虫の目」。これは専門を深く掘り下げる目です。皆さんは学者として自分の専門性を徹底的に高め、関連する学問を深掘りしていきます。我が国のみならず世界に散らばる同じ分野の専門家の論文や発表を逐一参考にしながら、自分の研究や学習を進めていくことになります。これが「虫の目」です。(中略)

    2つ目の「鳥の目」は、高いところから全体像を俯瞰して、広範囲な学術の中で、自分の研究が「ここにあるんだな」と体系的に位置付ける目です。(中略)皆さんは「鳥の目」を駆使して、自分の研究を、広い意味での学術の発展の中に位置付けていってください。そして「鳥の目」を駆使して、意義深く、創造的な研究テーマを提案していってください。

    最後の「魚の目」は、流れを判断する目です。虫の目や鳥の目で見るスナップショット、すなわち静的な写真とは異なり、動的な流れを見極める目です。ゼミ、研究室、教室、学会等で出会う様々な友人や教員との交流。旅行先や出張先での出会いで学ぶ新しい考え方とその動き。つまり、人間が形成する社会と、その生活の場である地球環境の変化といった流れを見極めるのが魚の目です。

まとめ:3つの視点でDX戦略を立体的に捉える

変化の激しいDX時代において、一つの視点だけに固執することはリスクになります。3つの目を使い分け、戦略を立体的に捉えることが重要です。

  • 虫の目(現場視点):顧客の課題や業務プロセスの詳細を解像度高く捉える。
  • 鳥の目(全体視点):部分最適に陥らないよう、組織全体や市場の中での位置づけを俯瞰する。
  • 魚の目(時流視点):技術や市場のトレンドを読み、変化の波に乗るタイミングを見極める。

これらの視点を実際の戦略策定や環境分析にどう落とし込むべきか、具体的なフレームワークや考え方は以下の記事で詳しく解説しています。

▼ 視点を活かして次のアクションへ

荒瀬光宏

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
詳しいプロフィールはこちら

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