デジタルガバナンス・コード2.0とは?――要点整理と図解

デジタルガバナンス・コード2.0は、経済産業省が2020年11月に策定した日本企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるための指針です。 本記事は、デジタルガバナンス・コード2.0を、原典の章立てに沿ってわかりやすく解説したものですデジタルガバナンスコード2.0の位置づけ、全体構造とポイントを抜粋しながら解説。また、DX推進ガイドライver1.0とデジタルガバナンス・コード3.0についても補足します。

デジタルガバナンスコード2.0の位置づけ

① DX推進ガイドラインとは

「DX推進ガイドライン」は、経済産業省が2018年に策定した企業がデータとデジタル技術を活用して競争力を高めるために、経営のあり方・仕組みITシステムの構築の要点を体系化した公的指針です(2本柱・11項目)。経営層や取締役会、投資家などが共通言語でDXの取組状況を確認するための土台となりました。

DX推進ガイドラインについて詳しく知りたい方は、経済産業省 DX推進ガイドライン Ver.1.0 の構成と定義をご覧ください。

② デジタルガバナンスコード2.0とは(何を・なぜ統合?)

2020年に公表されたデジタルガバナンス・コードは、「経営と投資家の対話」を意識したDXの実践規範として整備されました。2022年に2.0へ改訂されました。この改訂では、従来のDX推進ガイドラインの内容を取り込み、企業側の使い勝手を高めるために1つのコードへ統合。結果として、デジタルガバナンス・コード2.0は4本柱(ビジョン・戦略・成果指標・ガバナンス)×「基本的事項/望ましい方向性/取組例」で構成され、「基本的事項」はDX認定の審査基準と対応する仕立てになりました。統合の狙いは、重複する文書を横断せずに済むようにし、経営・開示・監督・対話の一貫性を確保することにあります。

③ デジタルガバナンス・コード3.0への流れ

その後2024年に3.0が公表され、全体は「3つの視点・5つの柱」へ整理されました(人材の新柱化、開示の集約、ガバナンス項目の再配置など)。本記事ではまず2.0の理解を主眼とし、3.0の差分は後段で要点のみ補足します。

デジタルガバナンスコード2.0の構造

デジタルガバナンス・コード2.0の柱立て

次の6つの目次構造になっています。 1.ビジョン・ビジネスモデル 2.戦略 2−1.組織づくり・人材・企業文化に関する方策 2−2.ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策 3.成果と重要な成果指標 4.ガバナンスシステム

デジタルガバナンス・コード2.0の全体構造

デジタルガバナンスコード2.0の全体構造(4本柱と「基本的事項/望ましい方向性/取組例」)

デジタルガバナンスコード2.0 全体構造

出典:経済産業省『デジタルガバナンス・コード2.0』PDF

デジタルガバナンスコード2.0の主要ポイントと抜粋

1. ビジョン・ビジネスモデル

原典は、ビジネスとITシステムを一体として捉える立場から、デジタル技術による社会・競争環境の変化(機会と脅威)を踏まえた経営ビジョンの策定と、その実現に向けたビジネスモデルの設計を求めています。全情報を開示することは要件ではありませんが、ステークホルダーとの対話の「きっかけ」となる情報は広く公表することが望ましいとされます。認定基準は、こうしたビジョンやビジネスモデルの方向性の公表を確認可能な公開文書により判断すると明記されています。

「価値創造ストーリーとして、ステークホルダーに示していくべきである。」(柱となる考え方)

「経営ビジョン及びビジネスモデルの方向性を公表していること。」(認定基準)

2. 戦略

ビジョン実現のため、デジタル技術を活用する戦略の策定・公表が求められます。戦略は変革シナリオとして具体化され、施策ポートフォリオの合理的・合目的な予算配分や、意思決定を支える仕組みを含意します。併せて、データは重要な経営資産の一つとして扱うことが望ましいとされ、既存事業の高度化と新規ビジネス創出の双方で活用する方向が示されています。

「デジタル技術を活用する戦略を策定し、示していくべきである。」(柱となる考え方)

「データを重要経営資産の一つとして活用している。」(望ましい方向性)

2-1. 組織づくり・人材・企業文化

戦略推進に必要な体制の構築(権限・責任・役割の明確化)と、人材の育成・確保、文化醸成に関する方針の明示が求められます。望ましい方向性としては、経営層から現場までが主体的に動ける権限設計、社外リソースを含む知の取り込み、リスキリングやラーニング設計、失敗を許容し学びを促す組織文化の形成などが例示されています。取組例には、責任者の設置、スキルマトリクス整備、外部人材・専門家の活用、挑戦を支える評価・制度等が挙げられています。

「必要な体制を構築するとともに、人材の育成・確保等を重要な要素として捉えるべきである。」(柱となる考え方)

2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境

ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けた方策(技術・標準・アーキテクチャ、運用、投資計画等)を明確化し、ステークホルダーに示すことが要請されます。望ましい方向性は、レガシー(技術的負債)の最適化、先進技術導入の検証と展開、DevOps/運用高度化、意思決定に資する投資評価など。取組例には、現状分析・課題評価、必要対策の実施、情報資産の把握、全社最適の徹底と個別最適の回避などが並びます。

「ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に向けた方策を示していること。」(認定基準)

3. 成果と重要な成果指標(KPI)

戦略の達成度を測る指標の設定と、その指標に基づく成果の自己評価が求められます。指標は、企業価値創造に係るもの(財務指標等)と、戦略実施による効果を評価するものの両面が想定され、進捗モニタリングや必要に応じた見直しも含意されます。望ましい方向性として、ビジネスKPIとの接続性、KGIへの整合的なストーリー、ESG/SDGsへの取組と成果の関係性などが挙げられています。

「戦略の達成度を測る指標を定め…自己評価を示すべきである。」(柱となる考え方)

「指標について公表していること。」(認定基準)

4. ガバナンスシステム

経営者は、デジタル活用戦略の実施に当たり、ステークホルダーへの情報発信(メッセージ)を含めリーダーシップを発揮するとともに、事業部門やIT部門と協力して、動向や自社ITの現状・課題を把握し、戦略の見直しに反映することが求められます。さらに、戦略実行の前提となるサイバーセキュリティ対策を適切に推進すること、取締役会設置会社では監督の枠組みを整えることが示されています。

「経営者は…リーダーシップを発揮すべきである。」(柱となる考え方)

「サイバーセキュリティ対策を推進していること。」(認定基準)

DX認定との関係(審査に直結)

DX認定制度(METI)は、デジタルガバナンスコードの「基本的事項」に対応する企業を国が認定する制度です。審査の実務はIPAのDX推進ポータルに集約され、機関承認済みの公開文書指標(KPI等)に基づく整合的な説明が核となります。

  • 公開文書の整備(ビジョン/戦略/人材/IT・サイバー/KPI/監督)
  • As is/To beモニタリング体制、見直し基準の明示
  • 申請書の表現とIR文書の整合(矛盾排除・最新版反映)

旧ガイドライン(DX推進ガイドラインVer.1.0)との関係

2018年のDX推進ガイドラインは、有識者検討会の議論を経てデジタルガバナンスコード2.0に統合されました。統合の狙いは、施策全体の整合と、利用者視点での一体化にあります。

[補章]デジタルガバナンスコード3.0(差分のみ)

デジタルガバナンスコード3.0は、副題に「DX経営による企業価値向上」を掲げ、「3つの視点・5つの柱」へ再整理されています。改訂のポイントでは、人材の新柱化、ガバナンス項目の各柱への移行、開示の集約などが示されています。

デジタルガバナンスコード3.0の全体像(3つの視点・5つの柱)

デジタルガバナンスコード3.0 全体像

出典:経済産業省『デジタルガバナンス・コード3.0』および「改訂のポイント」

実務への落とし込み(経営層/各責任者)

  • 経営者・取締役会:方針・KPI・モニタリング・サイバーを年次アジェンダ化。重要インシデント対応や資源配分、外部有識者の活用を含め監督の可視化を図る。
  • CIO/CDO/CISO:IT・データの全社整合、レガシー最適化計画、クラウドやセキュリティ施策の推進。
  • 人材責任者:人材ポートフォリオ・育成・配置の整備、社内外の学習機会設計、挑戦を支える評価制度。
  • IR/経営企画:価値協創ガイダンス2.0等との整合を図り、統合報告や中計へ一貫したシナリオで反映。

FAQ(2.0に関してよくある質問)

Q1. デジタルガバナンスコードは大企業だけが対象ですか?

A. いいえ。上場・非上場や企業規模を問わず、広く一般の事業者が対象です。

Q2. デジタルガバナンスコードとDX認定の関係は?

A. 各柱の「基本的事項」=DX認定の審査基準に対応します(審査事務はIPA)。

Q3. まず何から着手すべきですか?

A. 4本柱に沿う現状整理→公開文書の整備→指標(KPI等)とモニタリング体制の確立、の順が目安です。

荒瀬光宏

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
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