本稿は、経済産業省が公表した「デジタルガバナンス・コード2.0(以下、DGC2.0)」を原典の章立てに沿って要点化し、大企業の取締役会・経営層・IR/CIO・CDO・CISO・CHROが意思決定・開示・監督に直結させて活用できるよう、実務の着眼点を整理したものです。
DGC2.0は、DXを企業価値向上へつなげるための実践規範で、各柱の「基本的事項」はDX認定制度の審査基準に対応します(審査事務はIPA)。 まず2.0の全体構造と4本柱の要点を押さえ、機関承認済みの公開文書(統合報告書・中計・方針類など)に落とし込むことが実務上の第一歩です。最後に、DGC3.0の差分(3つの視点・5つの柱、開示の集約、人材・サイバーの強化など)を最小限で補足します。
一次情報:DGC2.0本体PDF / DGC総合ページ / DX認定(METI) / DX認定(IPA) / DGC3.0本体・改訂ポイント
目次
DGC2.0の位置づけ(旧ガイドライン統合の経緯)
経済産業省は、利用者視点での一体化を図るため、従来のガイドライン群を統合し、2022年9月に「デジタルガバナンス・コード2.0」として改訂しました。総合ページには、DGC本体(2.0/3.0)、DX認定・DX銘柄、関連ガイドライン(価値協創2.0、人的資本、サイバーGL)への導線が整理されています。
【図解】2.0の全体構造(4本柱 ×「基本的事項/望ましい方向性/取組例」)
デジタルガバナンスコード2.0全体像

デジタルガバナンスコード2.0全体構造
出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」 PDF(DX研にて再構成・加筆)
デジタルガバナンスコード2.0の柱立て
1.ビジョン・ビジネスモデル
2.戦略
2−1.組織づくり・⼈材・企業⽂化に関する⽅策
2−2.IT システム・デジタル技術活⽤環境の整備に関する⽅策
3.成果と重要な成果指標
4.ガバナンスシステム
2.0 本文の抜粋と要点(章節順・原典準拠)
1. ビジョン・ビジネスモデル
基本的事項(要点):デジタル技術や社会変化が自社にもたらす機会とリスクを踏まえ、経営ビジョンと価値創造ストーリーを策定・公表する。判断は機関承認済みの公開文書(統合報告書、中期経営計画、各種方針)に基づく。
望ましい方向性(例):シナリオで不確実性を織り込み、ビジネスモデル変革の方向性を明確化。
実務の着眼点:統合報告の価値創造ストーリーとDGCの柱を整合。メッセージはCEO発、全社KPIと連動。
2. 戦略
基本的事項(要点):目指すビジネスモデル実現のためのデジタル活用戦略を策定・公表(機関承認×公開)。
望ましい方向性(例):データを重要経営資産と位置づけ、投資配賦・優先順位・PoC→実装の資源配分ルールを明示。
実務の着眼点:データ戦略(全社アーキテクチャ、マスタ整備、データガバナンス)を戦略章に織り込み、事業KPIとの紐付けを明確化。
2-1. 組織づくり・人材・企業文化
基本的事項(要点):戦略推進に必要な体制設計(権限・責任)、人材の育成・確保、文化醸成の方針を明示。
望ましい方向性(例):CDO/CIO/CTO/CDataO等の役割明確化、経営層のデジタル素養の可視化、全社的リスキリング。
実務の着眼点:人的資本の開示と連動し、育成・採用・配置・外部人材活用を計画とKPIで示す。
2-2. ITシステム・デジタル技術活用環境
基本的事項(要点):アーキテクチャ・運用・投資計画を明確化し開示。技術的負債(レガシー)への対応方針を含む。
望ましい方向性(例):データ連携基盤、ゼロトラスト等のセキュリティ設計、クラウド活用、ベンダーマネジメントの透明化。
実務の着眼点:サイバーセキュリティ経営ガイドラインVer.3.0の「3原則・重要10項目」と紐づけ、取締役会の監督アジェンダ(年次)に落とす。
3. 成果と重要な成果指標(KPI)
基本的事項(要点):定量・定性のKPIを設定し、As is/To beギャップを把握、進捗モニタリングと見直しを行う。
望ましい方向性(例):事業成果(売上構成・LTV・稼働率等)と能力(データ品質・デリバリ速度・人材育成進捗等)の両面で設計。
実務の着眼点:公開KPI(IR)と内部KPI(経営管理)の整合を明示し、監督・評価サイクルの説明責任を果たす。
4. ガバナンスシステム
基本的事項(要点):経営者メッセージの対外発信、取締役会による監督、サイバーセキュリティ対策(監査含む)を明確化。
望ましい方向性(例):指名・報酬・監査等の委員会との役割分担、重大インシデントの報告・再発防止、外部有識者の活用。
実務の着眼点:監督アジェンダの年次化(KPI、サイバー、人的資本)と、議事録・委員会報告の整流化。関連GL(サイバー、価値協創2.0、人材版伊藤2.0)への相互参照を明記。
DX認定との関係(審査に直結)
DX認定制度(METI)は、DGCの「基本的事項」に対応する企業を国が認定する制度です。審査の実務はIPAのDX推進ポータルに集約されています。申請の実体は、前章の要点のとおり、機関承認済みの公開文書とKPIに基づく説明の整合性が核となります。
- 公開文書の整備(ビジョン/戦略/人材/IT・サイバー/KPI/監督)
- As is/To beとモニタリング体制、見直し基準の明示
- 申請書の表現とIR文書の整合(矛盾排除、最新版に更新)
旧ガイドライン(DX推進ガイドラインVer.1.0)との関係
2018年公表のガイドラインは、有識者検討会の議論を経てDGC2.0に統合されました。統合の狙いは、施策全体の整合と、利用者視点での一体化です。
[補章]デジタルガバナンス・コード3.0(差分のみ)
3.0本体は、副題に「DX経営による企業価値向上」を掲げ、「3つの視点・5つの柱」へ再整理。

デジタルガバナンスコード3.0全体像
改訂ポイントでは、人材の新柱化、ガバナンス項目の各柱への移行、開示の集約などが示されています。

デジタルガバナンスコード2.0と3.0の対応
- 2.0「2-1 組織づくり・人材・企業文化」 → 3.0「3-1 組織づくり」「3-2 デジタル人材」
- 2.0「2-2 IT・デジタル技術活用環境」 → 3.0「3-3 ITシステム・サイバーセキュリティ」
- 2.0「4 ガバナンスシステム」 → 3.0の各柱+「5 ステークホルダーとの対話」(開示の集約)
エンタープライズ実務への落とし込み(取締役会/CXO/IR)
- 取締役会:KPI・モニタリング・サイバーリスク・人材を年次アジェンダ化。重大インシデント対応、資源配分、外部有識者活用を含め、監督の可視化。
- CIO/CDO/CISO:ゼロトラストやBCPを含むセキュリティ設計、重大システムの技術的負債解消計画、クラウド/データ基盤の全社整合。サイバー経営GL Ver.3.0に沿って監督資料を整える。
- CHRO:人材ポートフォリオ・育成・配置の整合、人的資本の開示とDX人材の獲得・育成のトラックレコード提示(人材版伊藤2.0を参照)。
- IR/経営企画:価値協創ガイダンス2.0のフレーム(戦略・リスク・KPI・ガバナンス)に沿い、整合シナリオを統合報告に反映。
FAQ(2.0の実務でよくある質問)
Q1. DGCは大企業だけが対象ですか?
A. いいえ。上場・非上場や企業規模を問わず、広く事業者が対象です。目的は、DX経営を通じた企業価値向上です。
Q2. DGCとDX認定の関係は?
A. 「DGCの基本的事項=DX認定の審査基準」です。申請・審査は、機関承認済みの公開文書とKPIの整合を軸に行われ、手続はIPAのDX推進ポータルから行います。
Q3. まず何から着手すべきですか?
A. ①2.0の4本柱に沿って現状ギャップを洗い出し、②公開文書(統合報告・中計・方針類)の最新化/整合、③KPIと年次モニタリング体制の確立、④サイバー経営GL Ver.3.0や価値協創2.0・人材版伊藤2.0と一枚絵で整合、の順が目安です。
参考文献・出典
- 経済産業省.「デジタルガバナンス・コード2.0(本体PDF)」(2022年9月13日)
- 経済産業省.「デジタルガバナンス・コード(総合ページ)」(2025年8月閲覧)
- 経済産業省.「デジタルガバナンス・コード3.0(本体PDF)」 / 改訂のポイント(2024年9月19日)
- 経済産業省.「DX認定制度(公式)」
- IPA.「DX推進ポータル」
- 経済産業省.「統合の説明(PDF)」(2025年8月閲覧)
- 経済産業省.中堅・中小企業等向け「実践の手引き2.0」(PDF)
- 経済産業省.「サイバーセキュリティ経営ガイドライン Ver.3.0(PDF)」
- 経済産業省.「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス2.0(PDF)」
- 経済産業省.「『人材版伊藤レポート2.0』公表(プレス・資料)」(2022年5月13日)

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
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