DXでは、顧客ニーズの変化に合わせて新しい提供価値を創ることが求められます。そのため、DX時代に適した新規事業創出プロセスとフレームワークの理解が欠かせません。
当研究所のDX新規事業企画研修で実際に使っているプロセスをもとに、環境分析(T2C)、ジョブ理論・ペルソナ、カスタマージャーニー、リーンキャンバス、ビジネスプラン構成要素、評価軸までを解説します。
目次
DXにおける新規事業創出の位置づけ(提供価値の創造)
最初に、DXと新規事業の関係を簡潔に整理します。DXは、デジタルによる環境変化に企業が対応するための変革であり、方向性は大きく「提供価値の創造」と「業務の高度化」に分かれます。ここで扱うのは前者(提供価値の創造)で、その取り組み方はおおむね三つです。
- 第一は、既存事業に新しい価値を追加する方法です。たとえば、デジタルを使った顧客接点の拡大やサービスの高度化が該当します。市場変化が比較的小さく、現行のビジネスモデルで十分に対応できると判断できる場面に向きます。
- 第二は、既存事業のビジネスモデル自体を変える方法です。既存のやり方では顧客価値を届けにくくなっている場合に有効ですが、対象となる売上・組織・業務プロセスが大きいため、同時に多くを変える必要があり難易度は高くなります。
- 第三は、既存とは別に新規事業を立ち上げる方法です。既存事業への影響を最小限にしながら、新しい価値と仕組みを小さなチームで素早く試せる点が利点です。1よりは難しい一方、2よりは着手しやすいケースが多く、リスクもコントロールしやすい取り組み方です。近年は、既存の稼ぎを守りつつ新しい柱を育てる「両利きの経営」**の文脈で、新規事業が重要な役割を担います。
以降では、この新規事業について、どんな手順で考えるか、それぞれのプロセスでどんな理論、フレームワークを使うべきかを解説します。
DXにおける新規事業創出プロセス
新規事業創出プロセスと各プロセスで活用する理論・フレームワークを示します。
大きくは、事業機会探索、課題設定、ビジネスプラン作成の3ステップ。より詳細には7つに分けられます。次から、プロセスに沿って一つずつ解説します。
Step1 事業機会探索:T2C→SWOT→クロスSWOT
分散した情報をT2C(Technology/Customer/Company)で集めて事実として並べ、SWOTで解釈し、クロスSWOTで「やるべき方向」を言語化します。出力は次工程で扱える粒度の機会仮説の短いリストです。
T2Cで事実を集める
Technologyは「できるようになったこと」、Customerは行動や意思決定の変化、Companyは移転困難な資産(現場ノウハウ、チャネル、保守網、データアクセスなど)を棚卸します。ここでは結論よりも事実の精度を優先します。
SWOT・クロスSWOTで示唆にする
T2Cの事実をSWOTへ写し、S×OやW×Oなどの組み合わせで事業機会を短文化します。並列列挙にせず、仮の優先順位を付けて次工程の焦点を定めます。
定義や手順の詳細は、環境分析・T2Cの解説をご参照ください。
Step2 顧客課題設定:ジョブ理論→ペルソナ→カスタマージャーニー
Step1の示唆を、顧客の成し遂げたい進歩(ジョブ)に言い換え、代表的なペルソナを定めます。続けてカスタマージャーニー(CJ)で体験の各フェーズをたどり、行動(事実)/進歩/Painを対応づけます。出力は課題仮説の束と検証前提です。
ジョブ/ペルソナで課題を定義する
ジョブは顧客が望む進歩を一文で定義します。ペルソナでは導入プロセスや関与部署など意思決定の制約を明らかにし、観察の前提を固定します。
カスタマージャーニーで詰める
認知から継続利用までのフェーズごとに行動を事実で記録し、進歩とPainを対応づけます。どのPainから解くかを決め、検証項目と成功条件を明示します。
Step3 ビジネスプラン作成:改訂リーンキャンバス→企画目次→評価
Step2の課題仮説を1枚で俯瞰できる形にまとめ、文章化し、三つの評価軸で次アクションに接続します。完璧さより整合性と学習計画を重視します。
改訂リーンキャンバスで1枚化する
リーンキャンバスの「主な指標」を「主なリソース」に戻し、「Unfair Advantage」を「顧客との関係」に置換します。大企業×DXで価値の源泉になりやすい資産と接点を初期から設計に織り込みます。
原型の定義や比較は、リーンキャンバス解説をご参照ください。
ビジネスプラン目次に展開する
リーンキャンバスでビジネスプラン概要が固まったら、ビジネスプランを作成します。次の「新規事業ビジネスプラン8つの基本項目」を網羅してプレゼンテーション資料として仕上げます。
- 概要(Overview)
- 機会(Opportunity)
- 問題(Problem)
- 解決策(Solution)
- 顧客または市場(Customer or Market)
- 競合(Competition)
- 収益モデル(Revenue Model)
- 事業成長ストーリー(Story)
三つの評価軸で判断する
市場魅力度/優位性構築可能性/自社戦略適合の三観点を端的に点検し、主要前提の検証計画(期間・データソース・成功条件)を1枚サマリに添えます。
生成AIの活用(工程横断)
Step1は技術×顧客変化の交差から示唆の候補出し、Step2はVOCや行動ログの要約によるPain・前提の優先度整理、Step3は改訂リーンキャンバスの未充足欄や検証データソースの提案に活用します。AIの出力は観察可能な事実で裏取りします。
株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
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