DXはトップダウンかボトムアップか?成功への双方向アプローチと変革の8段階

「DXはトップダウンで進めるべき」と言われますが、現実には現場主導のボトムアップで苦戦している企業が少なくありません。なぜ多くのDXプロジェクトは「組織の壁」に阻まれてしまうのでしょうか。

本記事では、DX推進における「マネジメント」と「リーダーシップ」の決定的な違いを整理し、AdobeやSOMPOホールディングスの成功事例を紐解きます。その上で、日本企業が目指すべき「双方向アプローチ」の重要性と、変革を完遂させるための「組織変革の8段階」プロセスを具体的に解説します。

DXでは、経営理念の見直しやあるべき姿の再設計、全社戦略、提供価値を支える組織文化・マネジメント・ガバナンス・人事制度の見直し、変革ビジョンの策定に加えて、リソースの付与・投資・株主やステークホルダーへの説明責任など、トップダウンでなければ実現できない事項が多くあります。

組織内で培ってきたルールや体系に沿って管理することを「マネジメント」と呼ぶのに対し、新しい優先順位や方向性を示すスキルを「リーダーシップ」と呼びます。DXはまさに、後者のリーダーシップが問われる経営変革です。トップダウンでなければ遅々として進まず、成果が出ないおそれすらあるため、DXはトップダウンで始めるに越したことはありません。

DX成功事例:経営トップによるリーダーシップの極意

トップダウン型DXを成し遂げた企業には、共通して経営トップによる大胆な「決断」と「危機意識の共有」があります。ここでは、変革の転換点となった2社の具体的なプロセスを見ていきましょう。

Adobe(アドビ)の変革と転換点

アドビはかつて、デザイナー向けの非常に高価なパッケージソフトウェアを販売する事業を主軸としていました。しかし2009年頃、「デザインに関わる全ての人がコラボレーションできるクラウド」の価値に気づき、パッケージ販売からサブスクリプション型サービスへの完全移行という衝撃的な決断を下します。

この移行期には、一時的に売上が減少し株価が下落するという大きな痛みを伴いましたが、役員が一丸となってリーダーシップを発揮し、多額の投資や組織変革を断行しました。結果として、プロのデザイナーだけでなく、マネージャーや顧客などデザインに関わる全ての人に強烈な体験価値をもたらすプラットフォーム事業を創造することに成功したのです。

SOMPOホールディングスの危機意識と挑戦

国内での代表例はSOMPOホールディングスです。同社は、将来的な自動車の自動運転の実用化により、収益の柱である自動車保険市場が将来的に壊滅するという予測を立てました。「組織の提供価値がなくなる」というこの強烈な危機感のもと、経営トップは自身の言葉で社員に対して直接危機意識を伝え、全社にDXの大号令をかけました。

自社の強みを活かした新たな価値創造や社会課題の解決を目指し、SOMPO Digital Labの立ち上げやサイバーセキュリティ事業への参入など、既存の保険業の枠を超えた変革が現在も進行しています。これらは、現場の承認を得るためではなく、トップが自ら「危機意識」を伝えることで導いた結果です。

ボトムアップ型DXの限界と直面する「3つの壁」

現実には、現場の情熱的な個人やチームが主導する「ボトムアップ型」でDXがスタートするケースも多くあります。しかし、現場がどれほど危機感を持って自発的に企画しても、経営者の「気づき・覚悟」という最初の壁を乗り越えられなければ、大きな変革にはつながりません。

ボトムアップ型DXが本格的な成功に至らない理由には、以下の「3つの壁」が立ちはだかります。

  • ガバナンス・マネジメントの壁: 会社からの制約が多く、既存の組織ルールが足かせとなる。
  • リソースの壁: 専門人材の不足、予算の少なさ、権限の小ささがボトルネックとなり、会社からの支援が得られにくい。
  • 他部門との調整: 他部門との調整に苦労し、自社のコアコンピタンスを活かしきれない。

この状況を打破する唯一の道筋は、現場だけで完結させようとせず、「経営陣を巻き込んでトップダウンへと持ち込むこと」です。役員向け勉強会などを開催し、経営層が自社の危機を「自分事」として捉えるきっかけを意図的に作ることが、ボトムアップ成功の鍵となります。

理想的な「双方向アプローチ」によるDXビジョン策定

DXの進め方は、トップダウンかボトムアップかという二者択一ではありません。最も有効なのは、経営層と現場が連動する「双方向アプローチ」です。

DXビジョン策定の双方向アプローチ
図:DXビジョン策定における理想的なアプローチ(双方向アプローチが最適解)

トップダウンアプローチ(○)は経営陣のパワーを利用した変革が可能ですが、現場との乖離が生じるリスクがあります。一方、ボトムアップ(×)は既存ガバナンスを突破できず、本格的な変革には至りません。経営層が指針を示しつつ現場の声を吸い上げる双方向アプローチ(◎)こそが、すべての人が参画できる理想的な形です。

DX推進を完遂させる「組織変革の8段階」プロセス

DXを一時的なブームで終わらせないために、コッターの理論をDXに適用した以下のプロセスで進めることが推奨されます。

DX組織変革プロセス DX特有の考慮点
1)経営トップ起点で危機感醸成 事業環境・競争原理の変化を正しく認識する
DXはトップの危機意識が弱い場合も多い
2)DX推進チーム構築 DX推進チームの設立
役員・管理・事業部門の役割明確化
デジタル技術支援体制の構築
3)DXビジョン・戦略策定 競争原理を意識したビジョン・戦略策定
経営計画と合体させる
4)DXビジョンの周知徹底 ビジョン実行上の課題について
組織横断で話し合える風土を醸成する
5)自発的な行動変容の促進
6)短期的成果の実現
7)評価指標の設計 従来の指標が
「あるべき行動」と乖離しやすい
8)変革の常態化 変化が連続発生することを前提に考える

まとめ:DXを加速させる「双方向のリーダーシップ」

DXの進め方の王道は、トップダウンのリーダーシップを起点としつつ、現場を巻き込む双方向のアプローチを確立することです。経営層が「自身の言葉」で危機意識を共有し、変革を止める「壁」を意図的に取り除くことから始めましょう。

さらに理解を深めるためのリソース

荒瀬光宏

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
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