問題定義とは、「誰の、どのような問題を解くのか」を明確にし、関係者の認識をそろえることです。現状とあるべき姿のギャップや、顧客・社員が目的を果たすうえでの障害を言葉にします。
本記事では、AsIs-ToBe分析とジョブ理論の具体例を通じて、問題定義の進め方を解説します。よくある失敗や、生成AIとの対話で定義を見直し、組織で合意する方法も紹介します。
問題定義から解決策立案まで、自社の実課題を使って実践したい方は、当研究所の生成AI時代の問題解決研修をご覧ください。
はじめに:問題解決の起点となる「問題定義」とは?
ビジネスにおける「問題定義(What)」の重要性
ビジネスの基本となるスキルの一つが「問題解決」です。解決策を考える前に、何を解決すべきかを明確にすることで、検討の方向性をそろえられます。
その問題解決のプロセスの起点となるのが「問題定義」です。問題定義とは、組織として「そもそも解くべき問題は何か?(What)」を明確に規定する作業を指します。
問題解決プロセス(What→Where→How)における位置
問題解決の全体像は、「問題定義(What)」「問題特定(Where)」「解決策立案(How)」「実行(Actions)」の4段階で整理できます。このうち、実行前の検討に当たるのがWhat→Where→Howの3ステップです。
の現在地-scaled.png)
問題解決では、いきなり手段や実行の話に進まず、まず何を解くのかを明確にします。Whatが不在のまま手段を選ぶと、目的に合わない対策を進めてしまうおそれがあります。
生成AI時代に人間が担うべき核心スキル
生成AIは、問いの候補を出したり、問題の捉え方を広げたりする支援ができます。人が担うのは、現場の事実や目的を踏まえて解くべき問題を選び、関係者と合意することです。「何を解くべきか(What)」をビジネスの文脈に合わせて判断する力が、生成AI時代にも求められます。
【王道の型】AsIs-ToBe分析で「理想と現実のギャップ」を捉える
問題定義の最も基本的かつ強力な型が、AsIs-ToBe(現状・あるべき姿)分析です。ビジネスにおける「問題」とは、あるべき姿(理想)と現状(現実)の「差(ギャップ)」そのものを指します。

ビジネスには必ず目標やゴールが存在します。そのため、現在の状況と目標との間に乖離があるならば、それはすべて「問題」として定義することが可能です。「何か特別な困りごと」を探すのではなく、目標への道程におけるギャップを正しく捉えることが、プロの問題定義の第一歩です。
認識のずれを防ぐ「問題定義」3つの鉄則
曖昧な定義を避け、組織の共通言語とするためには、以下の3つのルールを徹底しましょう。
- 詳細に言語化する:「誰が、いつ、どこで、どんな状態か」を可能な限り詳しく書き出します。
- 数字や固有名詞を使う:対象や期間、目指す状態を具体化し、関係者が同じ意味で理解できるようにします。
- 原因や手段を、問題の定義に混ぜない:「なぜそうなっているか(原因)」や「どうすべきか(手段)」の仮説は分けて整理し、まず現状とあるべき姿の差を明確にします。
書き出す際は、まず「今はどうなっているか」と「どうなればよいか」を並べて書きます。次に、二つの状態にどのような差があるかを、数字や具体的な言葉で説明しましょう。
AsIs-ToBeによる問題定義の具体例
曖昧な困りごとを、AsIs-ToBeを使って具体的な問題に整理した例を紹介します。

具体例1:営業部門の売上目標
第1営業部の「売上が足りない」という曖昧な状態を、「今期の売上目標1億円(ToBe)」と「現在の売上5,000万円(AsIs)」で整理します。残り3か月で期末を迎える場合、「あと5,000万円の売上を積み上げる必要がある(GAP)」と具体的に定義できます。
具体例2:工場の品質改善
工場Aで製造した部品の設計値に対する誤差が1%(AsIs)であるのに対し、品質基準は0.1%以内(ToBe)です。この差から、「誤差を1%から0.1%以内に抑える必要がある(GAP)」と定義できます。何をどこまで改善するのかが明確になります。
【DX時代の型】ジョブ理論で「本質的な目的」を捉える
新たな価値創造やイノベーションに加え、社内業務の見直しにも役立つのが「ジョブ理論」です。顧客が「何を買ったか」に加えて、「特定の状況で、何を成し遂げるためにその製品を雇用(採用)したか」を理解するための枠組みです。AsIs-ToBeであるべき姿を考える際に、そもそも誰の、何を実現すべきかが曖昧な場合は、ジョブ理論でその人の状況と目的を掘り下げます。
ジョブとは、「特定の状況における」+「顧客が達成したい進歩」と定義されます。
有名な「ミルクセーキの逸話」では、朝の通勤客が「長距離の車通勤」という「状況」で、「退屈な時間を紛らわせ、午前中にお腹が空かないようにしたい」という「ジョブ」のためにミルクセーキを買っていたことがわかりました。この見方により、競合には他の飲み物だけでなく、バナナやドーナツなども含まれることが見えてきます。
20260223-scaled.png)
例えば、「ランチ選び」を例に考えてみましょう。「平日のオフィス街で働く田中さん」が「13時から来客がある」という状況にいる場合、彼のジョブは「単に空腹を満たす」ことではなく、「失敗しない店を選び、限られた休憩時間で効率よくお腹を満たしたい」となります。ここから「おいしくてすぐ入れる店がどこにあるかわからない」という課題の仮説を立てられます。
ジョブ理論活用の前提:まず「主語(誰のジョブか)」を明確にする
ジョブ理論で問題定義を行う際は、まず「誰のジョブか」を明確にします。生成AIと検討するときも、誰の立場で考えるかを最初にそろえることが大切です。
- 顧客課題仮説:主語は「顧客」。新規事業創出などが目的です。
- 社内業務課題仮説:主語は「自社社員」。業務効率化や生産性向上、インフラ刷新などが目的です。自社業務の場合は、顧客を自社社員などに置き換えてジョブを考えます。
「誰の・どんなジョブの・どんな課題」を整理する方法や社内業務への応用例は、ジョブ理論のフレームワークと実践方法で詳しく解説しています。
実務で陥りがちな「問題定義」の3つの失敗
失敗① 問題定義が「曖昧」な状態で進めている
よくあるのが、言語化が不十分なまま議論を始めるケースです。「生産性を上げよう」といったスローガンレベルでは、メンバーごとにイメージする「あるべき姿」が異なり、足並みが揃いません。前述の3つの鉄則に立ち返り、数字や固有名詞を使って、関係者が同じ意味で理解できる表現にすることが大切です。
失敗② いきなり「How(手段)」から議論を始める手段の目的化
「最新のAIを導入しよう」「DX推進チームを作ろう」など、解決策(手段)ありきで動いてしまうパターンです。本来、手段は定義された「問題(ギャップ)」を埋めるための道具に過ぎません。What(何を解くか)が不在のままHowに走ると、多額の投資をしても成果が出ない事態に陥ります。
失敗③ 定義の時点で「原因」や「手段」を混ぜてしまう
「○○システムがないことが問題だ(手段の不在)」「スキル不足が問題だ(原因の推測)」といった説明だけで問題を決めつけると、検討の幅が狭まります。まずは作業時間やミスの発生状況など、現状とあるべき姿の差を明確にしましょう。原因や手段の仮説は、その記述と分けて整理します。
いきなり正解は出ない。実践的な「問題の再定義」プロセス
問題定義は、一度の作業で完璧な正解が出るものではありません。実務においては、まず「仮設定」として言語化し、それを叩き台にして周囲と対話を重ねながらブラッシュアップしていく「再定義(リフレーミング)」のプロセスが極めて重要です。
ステップ1:まずは「仮設定」で泥臭く言語化してみる
最初から完璧な文章を目指す必要はありません。まずは現時点で把握している範囲で、「誰が・どんな状況で・何に困っているか(ギャップ)」を仮設定として言葉に落とし込みます。一度文字にして可視化することで、自分自身の思考の解像度が上がり、周囲に見せる「叩き台」が完成します。
ステップ2:「手頃で解けるとうれしい問題」への再定義
仮設定した定義をベースに、周囲のメンバーと議論したり、生成AIを壁打ち相手にしたりして洗練させていきます。壮大すぎて手が付けられない問題は、自分たちが扱いやすく、解決した際のメリットが明確な「手頃で解けるとうれしい問題」へとレベルを調整し、表現の解像度を上げていきます。
ステップ3:組織内で「共通言語」として合意形成する
再定義では、取り組む問題と目指す状態について、関係者の認識をそろえることを目指します。一度書いた定義をもとに、現場と経営層の認識にずれがないかを確かめ、他部門の人にも理解できる平易な表現で合意します。共通の理解を持つことで、その後の検討や意思決定を進めやすくなります。
生成AIを活用して「問題定義」の質とスピードを高める
AIを壁打ち相手にプロセスを高速往復する
生成AIに現状や目指す状態を伝え、AsIs-ToBeやジョブ理論の枠組みで整理してもらうと、原案の作成や異なる視点の洗い出しを短時間で進められます。原案に対して「主語が違う」「困る場面は別にある」などと修正を加え、対話を繰り返しましょう。AIが補った内容は仮説として扱い、現場の事実に照らして確かめます。
アイデアの量が質を高める(多産多死)
複数の仮説を出して比較すると、一つの見方では気づかなかった問題を見つけやすくなります。生成AIで「問いの切り口」を広げ、現場の事実や解決した場合の効果を踏まえて、人が取り組む問題を選びます。仮説を出すことと、その中から選んで合意することを組み合わせるのがポイントです。
まとめ:自組織の問題解決力を高めるために
問題解決において「問題定義(What)」はすべての土台です。AsIs-ToBeで現状とあるべき姿のギャップを捉え、ジョブ理論で目的とそれを妨げる課題を整理し、解くべき問題を具体的に言語化しましょう。
問題定義を終えた後の具体的な進め方については、次のステップとして問題解決のプロセスとフレームワークの記事もぜひ参考にしてください。
デジタルトランスフォーメーション研究所の生成AI時代の問題解決研修では、自社の業務課題・顧客課題を題材に、問題定義から解決策立案までをグループで検討します。生成AIとの対話で仮説を広げ、各段階で合意した内容をワークシートに整理し、職場での実践につなげます。
また、ほかのDX向けフレームワークも学びたい場合は、DXフレームワーク20選|全体像と使い方を図解もあわせてご覧ください。

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
詳しいプロフィールはこちら