国家基盤のDXの進め方を示す政策提言|日本のデジタル改革

IT連盟の2022年度政策要望の概要

「日本IT団体連盟」が令和4年度にまとめた「2022年度(令和4年度)政策要望」(https://itrenmei.jp/topics/2022/3706/)を公表し、牧島デジタル大臣およびデジタル社会推進本部に提出しました。本提言は、国の基盤から企業や地方行政、教育、医療、金融、次世代産業まで幅広な分野を対象に、デジタル化を通じた改革の具体策を網羅的に整理している点が特徴です。2022年1月13日の大臣提出後、2月2日にはデジタル社会推進本部にも迅速に提出され、その公表スピードからも政府のDX推進への強い期待感がうかがえます。提言書の構成は、国政が抱える課題を俯瞰的に捉え、必要な施策をシステム基盤と組織基盤の両面から整理しており、作成者の国を思う責任感と情熱が伝わります。

本提言書は全体で約200ページにわたり、各項目に具体的なロードマップやKPI例が示されており、今後の政策立案や地方自治体の計画策定にも貴重な参考資料となります。

政策要望の全体像と主要テーマ

本提言は以下の10項目で構成され、全体を一つのシステムとして捉えた包括的なDX戦略を示しています。

2022年度(令和4年度)政策要望全体図


1. 国家基盤のDX
2. デジタル人材基盤整備
3. 地方行政のDX
4. 防災・災害対応のDX
5. 教育分野のDX
6. 医療・健康分野のDX
7. 企業のDX
8. 金融・財政分野のDX
9. 次世代産業への投資
10. ダイバーシティ推進

これらの項目は独立しておらず、相互に連携しながら全体最適を図る必要があります。具体的には、国家基盤の刷新とデジタル人材育成は連動し、教育分野の改革が人材基盤の確立につながるなど、施策間のシナジーが強調されています。

本政策要望のポイント

デジタル化は目的ではなく、あくまで手段にすぎません。政府の重要会議では「解決すべき課題を国民と丁寧に共有しながら進める」ことが求められています。この「デジタル化は手段」というメッセージは、多くの人が理解しているものの、実際の施策に取り組む段階でつい見落としがちな、最重要ポイントです。

システムを企画・運営する組織が陥りがちなのは、「システム化するからシステム化する」という従来の行動パターンです。DXの本質は、デジタル時代における価値創造・提供のあるべき姿に沿った組織行動の変革にあります。仕組みそのものではなく、変革された組織行動こそがDXの“本丸”です。

この組織行動の変革を成し遂げられなければ、どれだけシステムを構築しても、安全安心で行き届いたサービスや、人が誇りを持って生きる幸福な生活を支えることはできません。

まずお伝えしたいのは、ここでいう「組織行動」とは、単にデジタル技術に精通していることではないという点です。もちろん、最新の技術動向やサービスを理解しておくことは必要です。しかし本質的には、新しい環境で課題を解決し、価値を創造するために求められるスキルや働き方を指しています。

デジタル時代の価値創造・価値提供に沿った組織行動とは

  • 顧客である国民や企業など、すべての関係者の視点に立ち、提供サービスの体験価値を最大化すること。
  • 社会課題の解決にあたっては、課題の根本原因を徹底的に追求し、関係者と何度でも対話し、省庁横断かつ民間も巻き込んだコラボレーションを行うこと。
  • 従来の行政サービスの枠にとらわれず、新しい社会環境を理解・予測し、行政でないとできない多くのことに主体的に取り組むこと。
  • 新しいサービス構築にあたっては、試作品やプロトタイプを最小の時間で作り、利用者に確認し、意見を取り入れて何度でも作り直し、結果的に早くニーズに合ったサービスを無駄なく作り提供するプロセス(アジャイル、リーンなどと呼ばれます)を実践すること。

もちろん、アジャイルな進め方は利用者が直接触れるサービスがメイン対象であり、国家基盤の部分ではそうはいかないこともあります。その場合は、対象業務ごとに最適なプロセスを定義することが重要です。また、年度予算計画という制約や年度の区切りが足かせとなってアジャイルに進められないこともあるでしょう。組織縦割りの壁が障害となり、コラボレーションはおろか手出しすらできないテーマもあるかもしれません。目的や全体感が明確に示されないまま上から細分化された指示が下り、疑問を挟む余地なく実行しなければならない場合もあるでしょう。

しかし、組織形態、コミュニケーション手段、ルール、ガバナンス、組織文化、評価制度、マネジメント方法といったものは、すべて「正しい組織行動」を実現するために作り上げられたものです。新しい組織行動を実践するために、これらをどのように変え、組織行動を変容させるべきかを考え、実行できるのはマネジメント層とトップだけです。上層部の皆様には、新しい環境をしっかり理解し、どのような行政を目指すべきか、そのためにどのような組織行動をとるべきか、さらにどのようなガバナンスや組織変革を実行すべきかというグランドデザインに着手していただきたいと思います。

つまり、行政に限らずDXとは、デジタルの仕組みと組織行動を支える仕組み、両輪の変革によって初めて成し遂げられます。その視点では、デジタルやITを人任せにしていては成功しません。デジタルは国や企業を運営するための重要な手段ですが、まず行うべきことは「どのように国や企業を変えるか」というビジョンをデザインし、そのデザインを実行するためのシステムと組織行動の設計を行うことです。内閣や企業経営者には、そのリーダーシップが今、強く求められています。

荒瀬光宏

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
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