DX戦略の立て方と策定プロセス|経営層向け実践フレームワーク3ステップ

DX(デジタルトランスフォーメーション)の成否は、その羅針盤となる「DX戦略」の質にかかっています。多くの企業がDXの必要性を認識しつつも、「具体的に何から手をつければいいのか」「どう戦略に落とし込めばよいか」と悩む経営層やマネジメント層は少なくありません。

本記事では、DX戦略とは何かという基本から、デジタルトランスフォーメーション研究所が提唱する独自の実践的な「DX戦略策定プロセス」を3つのステップで詳しく解説します。以下の内容を網羅し、マネジメント層が実行すべきアクションを具体的に示します。

  • DXと「デジタル化」の違い(なぜ戦略が必要なのか)
  • 全8種の実践テンプレート(現状分析・戦略策定・組織変革)
  • 戦略骨子を完成させるための具体的なフレームワーク

DX戦略とは?経営層が今すぐ策定すべき理由

DXと「デジタル化」の違い:なぜ戦略が必要なのか

DX戦略を正しく立てるための前提として、まず「DX」と単なる「デジタル化」の違いを明確にしておく必要があります。

経済産業省の「デジタルガバナンス・コード」でも示されている通り、DXとは単なるIT導入ではありません。データとデジタル技術を活用し、顧客や社会のニーズを基に製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革(トランスフォーメーション)することと定義されています。

以下の図は、デジタル化の段階を「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「DX」の3つに分けたものです。

部分最適・全体最適視点でみるデジタル化の3段階
部分最適・全体最適視点でみるデジタル化の3段階

※DXの定義の詳細はデジタルトランスフォーメーションとは?もご参照ください。

アナログ情報をデジタル形式に変換する「デジタイゼーション」や、業務プロセスを見直して効率化する「デジタライゼーション」は、既存の枠組みの中での「部分最適」な取り組みに過ぎません。一方、真のDXは、デジタルを前提として「価値の再定義」を行い、ビジネスモデルまで変革する「全体最適」の取り組みです。

多くの企業がデジタルツールを導入するものの、業務効率化のレベルに留まってしまうケースが見られます。これは、全体最適の視点が欠如し、場当たり的なデジタル化が目的となってしまっているためです。ビジネスモデル変革という真のゴールへ向かうためには、その羅針盤となる「DX戦略」の策定が不可欠なのです。

なぜ今、DX戦略の「策定」が急務なのか?

ではなぜ今、これほどまでにDX戦略の策定が不可欠とされているのでしょうか。それは、デジタル技術の進展により、市場環境がこれまでの延長線上にはない「非連続的」で劇的な変化を遂げているためです。顧客ニーズの多様化や、業界外からのディスラプター(破壊的企業)の参入などにより、既存のビジネスモデルのままでは企業は競争力を維持できません。

このような環境下において経営層の急務となっているのが、環境変化を正確に把握し、自社の「あるべき姿(ToBe)」を再定義することです。そして、現状(AsIs)からその「あるべき姿」へと組織全体を変革していくための設計図こそが「DX戦略」なのです。

DXのX(トランスフォーメーション)の意味
DXのX(トランスフォーメーション)の意味

DX戦略の立て方・策定プロセス:実践フレームワークを用いた3ステップ

DX戦略の策定は、やみくもに進めても現場の混乱を招くだけです。ここでは、当研究所が推奨する、マネジメント層(経営層・事業幹部・部長)が主体となって進めるべき実践的な「DX戦略策定プロセス」を解説します。

戦略策定は、大きく以下の3つのステップで進めます。

  • ステップ1. 現状分析(AsIs):自社の立ち位置と、DX時代における環境変化を正確に把握する
  • ステップ2. DX戦略策定(ToBe):分析結果をもとに「誰に・どんな価値を・どう提供するか」の新戦略を描く
  • ステップ3. 組織変革方針検討:新戦略を実行するための「仕組み」や「組織・ヒト」の課題を整理する
DX戦略策定プロセス
DX戦略策定プロセス

この3ステップのプロセスに沿って検討を進めることで、抜け漏れのない「DX戦略(DXビジョン)骨子」を完成させることができます。このプロセスは、全社ビジョンから部門別の戦略まで、組織の階層を問わず共通して活用できる設計図となります。

DX戦略(DXビジョン)骨子テンプレート
DX戦略(DXビジョン)骨子テンプレート

💡 自社でこのフレームワークを実践したい方へ

当研究所では、このテンプレートを用いて自社の戦略骨子を策定する「経営者・役員向けDX研修」を提供しています。

ステップ1:現状分析(AsIs)と環境分析フレームワーク

最初のステップは、自社の立ち位置を正確に把握することです。「前提合意」「環境分析」「SWOT分析」の3つのサブステップで構成されます。

1-1. 前提合意(戦略範囲と上位方針の確認)

まず、策定する戦略の範囲(全社、事業部、部門)、期間、そして拠り所となる上位方針(経営理念や中期経営計画)を明確にし、関係者間で合意します。

前提合意 - 組織階層と対応する上位方針例
前提合意 – 組織階層と対応する上位方針例

次に、DX環境の変化を分析します。一般的な分析フレームワークからファクト情報を整理し、DX時代に重要な「T2C」の観点でまとめ、最終的に「SWOT分析」で戦略的な示唆を導き出す流れで進めます。

環境分析(T2C分析)とSWOT分析の流れ
環境分析(T2C分析)とSWOT分析の流れ

1-2. 環境分析フレームワーク(DX時代のT2C分析)

環境変化の激しいDXにおいて、特に注視すべき要素が「技術(Technology)」「市場・顧客(Customer)」「自社(Company)」の3点です。このT2Cの観点に絞って、戦略に影響を与えるファクト情報を整理します。

T2C分析テンプレート
T2C分析テンプレート

1-3. SWOT分析(戦略的示唆の抽出)

T2C分析で得たファクト情報を解釈し、戦略の示唆を導き出します。自社にとっての「機会・脅威・強み・弱み」を、主要なポイント(各3つまで)に絞って整理します。

SWOT分析テンプレート
SWOT分析テンプレート

環境分析の詳細について興味がある方は環境分析フレームワーク実践ガイド|PEST・3C・SWOTとDXへの応用をご参照ください)。

ステップ2:DX戦略策定(ToBe)

次に、分析結果を基に「これからの戦略」を描きます。以下の5つのサブステップで構成されます。

2-1. 戦略分析の基本(Who/What/How)

DX戦略の策定では、戦略の基本となる「Who(誰に)」「What(どんな価値を)」「How(どのように提供するか)」を顧客起点で明確にすることが重要です。

戦略分析の3要素(Who, What, How)
戦略分析の3要素(Who, What, How)

環境の劇的な変化に対応するため、「これまでの戦略(旧戦略)」と「これからの戦略(新戦略)」を比較整理し、変革の方向性を定義した上で、実現のための「DX戦略打ち手マップ」を策定します。

新旧戦略分析と打ち手マップ策定の流れ
新旧戦略分析と打ち手マップ策定の流れ

2-2. Who分析(ターゲット市場の分析)

新旧の戦略を比較しながら、Who, What, Howの各要素を具体化します。最初に「Who:ターゲット市場分析」で、市場規模や顧客ニーズの変化を整理します。

Who:ターゲット市場分析テンプレート
Who:ターゲット市場分析テンプレート

2-3. What分析(提供価値の分析)

次に「What:提供価値分析」で、具体的な提供手段(How:商品・サービス)を整理した上で、その背後にある「本質的な提供価値(What)」は何かを分析します。

What:提供価値分析テンプレート
What:提供価値分析テンプレート

2-4. How分析(提供手段の分析)

あるべき提供価値(What)を検討した後、「How:提供手段分析」で具体的なアクションに落とし込みます。(リアル/デジタル)×(既存/新規)の4象限で、維持・強化・削減すべき既存手段や、追加すべき新規手段を整理します。

HOW:提供手段分析テンプレート
HOW:提供手段分析テンプレート

2-5. 打ち手マップ策定

ここまでの分析を基に、新戦略の実現方針を俯瞰して整理します。(全体最適/部分最適)×(対顧客/自社業務)の4象限に、新規事業創出、既存業務の再設計、デジタル化など、具体的な打ち手をマッピングします。

打ち手マップテンプレート
DX戦略打ち手マップテンプレート

ステップ3:組織変革方針の検討

DX戦略は「策定して終わり」ではありません。新戦略を実行するための「仕組み」と「ヒト・組織」への変革(組織能力の課題整理)が不可欠です。

新しい戦略は、既存の組織能力のままでは実現できない可能性があります。新戦略の実現を阻害する要因(課題)と解決策の方向性(施策案)を、「業務プロセス」「データ活用」「ヒト(スキル・風土・評価)」「マネジメント・組織形態」の4つの視点で整理します。

組織変革方針検討テンプレート
組織変革方針検討テンプレート

本記事で紹介したプロセスは、まず「戦略骨子」を策定することを目的としています。本ステップで基本的な課題と解決方針を整理した後、必要に応じて各テーマの詳細な実行計画へと落とし込んでいきます。

DX戦略策定でよくある失敗と成功のポイント

3ステップの策定プロセスを理解しても、実際の実行には障壁が伴います。よくある失敗例と、成功するためのポイントを解説します。

失敗例1:ビジョンが曖昧で「デジタル化」が目的になる

最も多い失敗が、既存業務の効率化や個別ツールの導入といった「部分最適(デジタル化)」が目的化してしまうケースです。これでは新たな価値創造やビジネスモデル変革(DX)には至りません。
ステップ2で定義した「What(本質的提供価値)」の再定義こそがDX戦略の核であると、常に意識する必要があります。(詳細は全体最適と部分最適の違いの記事をご参照ください。)

失敗例2:経営層がコミットせず「現場任せ」になる

DX戦略は、部門横断的なプロセス見直しや既存事業の変革を伴います。経営層や事業幹部が「現場任せ」にすると、部門間の利害対立や抵抗によって頓挫します。
ステップ1の「前提合意」からステップ3の「組織変革方針」まで、マネジメント層が一貫して強力なリーダーシップを発揮し、コミットし続けることが不可欠です。(詳細はDX推進における経営層の役割の記事をご参照ください。)

成功のポイント:全社DXビジョンと事業別戦略を連動させる

成功の鍵は、レイヤー(階層)間の連動です。まず経営層が「全社DXビジョン骨子」を策定し、それに基づき事業部門の幹部や部長が具体的な「事業別/部門別DX戦略骨子」へと落とし込みます。
本記事のフレームワークはどの階層でも共通して活用できるため、全社から部門まで一貫した戦略策定が可能になります。

事業別、部門別の戦略策定に興味がある方は、以下のページをご覧ください。
事業幹部・部長向けDX研修【DX時代の事業戦略を策定する実践型部長研修】

まとめ

本記事では、DX戦略の定義から、デジタルトランスフォーメーション研究所が推奨する実践的な3ステップの策定プロセス(①現状分析、②DX戦略策定、③組織変革方針検討)までを具体的に解説しました。

DX戦略は、一度策定したら終わるものではなく、環境変化に応じて見直し続ける必要があります。特に経営層・事業幹部・部長クラスのマネジメント層の皆様にとって、このプロセスを理解し、主体的に推進することが、企業の未来を左右します。

デジタルトランスフォーメーション研究所では、本記事で紹介したDX戦略策定プロセスを、ワークショップ形式で実践的に学び、自社の戦略骨子を策定する「マネジメント向けDX戦略策定研修」をご提供しています。対象者に合わせて2つのラインナップをご用意しておりますので、ご興味のある方はぜひ以下の研修サービスページをご覧ください。

荒瀬光宏

株式会社デジタルトランスフォーメーション研究所
代表取締役/DXエバンジェリスト
DX推進・企業変革の専門家。豊富な現場経験と実践知をもとにコンサルティング、企業研修、講演活動を行う。
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