本記事は、DX研代表取締役 DXエバンジェリスト 荒瀬光宏がインタビュアーを務め、ビジネス+ITが2022年12月7日に公開したインタビュー記事「世界初のDX提唱者ストルターマン教授に聞く、いま‘DXが危機的状況にある’根本原因」を、DX推進担当者の視点で深掘りしたサマリです。荒瀬が議論を重ねた要点を、元記事の情報を尊重しつつ補足しながらお届けします。
言葉の誕生から18年、DXの定義は変わらない
荒瀬:2004年、インディアナ大学副学部長 エリック・ストルターマン教授は、世界で初めて「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という概念を定義しました。その背景には、デジタル技術が社会全体に与える影響を根本から理解してもらいたいという思いがあったと聞きます。教授は、当時ウメオ大学(スウェーデン)で発表した際、「ありとあらゆる物事がデジタル化されると、すべてが根源的に変化する」というビジョンを示しました。
ストルターマン氏:はい。DXが単なるIT化や業務効率化の延長ではなく、ビジネスモデル、組織文化、ガバナンス、社員の思考や行動様式にまで踏み込む変革であることを強調したかったのです。政府や個人のライフスタイルを含むあらゆる領域で、従来のルールや常識を超える変化をもたらす──その定義は18年経っても変わりません。
“小手先の変革”にとどまる現状
荒瀬:実際、多くの企業はDXを正しく実行できていないと言われますが、そのケースとは?
ストルターマン氏:いま「DX」と呼ばれている取り組みの多くは、単にプロセスの一部をデジタル化し、業務のスピードアップやコスト削減を狙う“部分最適”に過ぎません。本来のDXでは、顧客体験や価値創造のあり方そのものを再構築し、新たなイノベーションを生み出すべきです。しかし誤解が広がり、企業は形だけのDXで満足してしまい、「せっかく手を付けたのに何も変わらなかった」「バズワードに過ぎなかった」と失望し、不信感を抱くケースが増えています。
モノを捨てて事業変革したスウェーデン製材所の事例
荒瀬:実際に真のDXを成し遂げた企業事例はありますか?
ストルターマン氏:スウェーデンのある製材所は、木を切って木材を売る従来のビジネスモデルを捨てました。自社が長年培ってきた加工技術や乾燥ノウハウ──これこそが真のコアバリューだと定義し、それをサービスとして提供する事業に転換したのです。物理的な製品ではなく、デジタルツールでリアルタイム乾燥制御ソリューションを販売するモデルにシフトし、売上と顧客満足度を大きく伸ばしました。このように、従来の慣習に固執せず、提供価値を根本から再定義する決断がDX成功の鍵です。
デザイン思考で真のDXを組織に浸透させる
荒瀬:変革をどのように組織に定着させればよいでしょうか?
ストルターマン氏:トップダウンだけでは限界があります。デザイン思考の手法を取り入れ、現場の社員が顧客視点で自社の提供価値を再構築できるワークショップを開催することが有効です。仮説構築→プロトタイプ作成→検証を繰り返し、小さな成功体験を積み重ねる中で組織文化が変わっていきます。これにより、DXの理念が全社に浸透し、自律的なイノベーション創出サイクルが生まれます。
DX推進担当者への示唆
- 定義を“部分最適”に留めず、顧客価値創造の視点で取り組む
- コアバリューを見極め、新たなビジネスモデルを大胆に検討する
- デザイン思考による段階的な組織変革で、現場からの自発的な動きを促す
詳しくはビジネス+ITの記事をご覧ください:世界初のDX提唱者ストルターマン教授に聞く、いま‘DXが危機的状況にある’根本原因